◇追記からどうぞー!(・∀・)
「ぐっっ…!」
「留さん!!」
ああ、しくったな。
胸に深々と刺さった敵の刀。
まさかまだ敵が残っていたなんて。
やっぱりまだまだ自分は未熟だと、してもしょうがない後悔をする。
忍術学園を卒業して俺は城に仕えることになった。
そして、今俺の下に走り寄ってくるこいつ、伊作も同じ城に勤めていた。
「留さん!!」
「伊作…」
「待ってて!今止血するから!」
うつ伏せに倒れている俺の傍に伊作が来る。
ドクドクドク。
ジワリジワリジワリ。
その間にも、血は俺の体から滲み出、そして溢れていく。
ああ、参ったな。
胸を刺される前から既に、俺は傷だらけだったのだ。なのに、胸にも刺されてしまった。
「くそっ、くそっ、血がとまらない、」
「もういい、伊作」
力なく言えば、必死に俺の血を止めようとしているこいつは俺を強く睨む。
「なにいってるんだ!君は僕が助けてみせる!だから諦めないで!」
ああ、変わらないな。
こいつは自分が保健委員長であろうとなかろうと、こうしていつも人の傷を必死に治そうとする。
「だから、もういいんだ」
でも、ごめんな伊作。
「なにいって―、」
「もう、手遅れだ」
俺の体に突き刺さった刀は心臓を貫いていた。
今、意識があるのも不思議なぐらいだ。
自分の身体のことは自分がよくわかっている。
俺はもう助からない。
「もう助からない。俺も、」
そして、
「お前も」
「え?」
伊作は一瞬、何を言っているんだという顔をしていたが、自分の身体を見ると、驚いた顔をする。
「そん、な、」
伊作の腹部から血が溢れていた。
致命傷を負ったのは俺だけじゃない。一緒に闘っていた伊作もまた敵からの攻撃を防げなかったのだ。
きっといつも自分のことじゃなく他人のことばかりを優先し心配するこいつのことだから、自分が傷を負っていることに気付いてもいなかったのだろう。
ドサリと俺の隣に力なく倒れる。
「…くそ、くそ、」
悔しそうに涙をぼろぼろこぼす。
それは自分が死んでしまう恐怖ではなく、自分が死んでしまったら俺を治せない、そしてきっともうどうあっても俺を救えないという悔しさだろう。
伊作、やっぱりお前は忍者に向いてないな。
敵味方関係なく、人を助けようとするお前には、忍者になってほしくなかった。忍術学園を卒業するあの日も、きっとお前はどこかの町医者になるのだろうと思っていた。
そして、俺がプロの忍者になって人を殺める代わりに、たくさんの人の命を救ってほしいと思ったのだ。
しかし、俺が就職した城で俺たちは再会した。
同じ忍として。
「…留、さん、しぬな、しな、ないで…」
馬鹿、お前だって死にかけなんだぞ、人の心配すんな。
それから、
泣くな、泣かないでくれ
呆れるほど優しいこいつの涙を止めてやりたいが、もう俺の手は指一本だって動かないし、声を出す力もない。
ただ夜の空を無力に見上げるしかない。
意識が遠退いていくのを感じながら、空をぼうっと見れば、ああ、今日は満月か。
綺麗だな。
もうすぐ命を終わらせてしまう俺たちには残酷なほど綺麗な満月だった。
あんなに痛かった筈なのに、最早痛みも感じない。
…確か願い事を叶えてくれるのはお星様であってお月様ではないんだっけか。
まあこの際、どっちだっていい
なあ、お月様よ、お願いがあるんだ
「とめ、さぶろう…」
一つ、こいつの涙を止めてくれ。
二つ、こいつが来世ではどうか人を殺めることなんてない人生を送れますように
「…いやだよ、離ればなれなんて、」
そして、三つ目、
来世でもこいつとまた出会わせてほしい
ああ、三つは贅沢だろうか。
ならば、せめて最初の二つは叶えてほしい。
お願いだ、
そして、そのまま俺は世界にさよならをした
*
「…留三郎っ、」
「留三郎っ、起きてよ!」
「…起きてってば!!」
「!」
急いで起き上がれば、視界には見慣れた教室、そして、
「ふう、やっと起きたね、留さん」
「い、さく…」
伊作がいた。
「もうとっくに放課後だよ?早く帰ろう?」
時計を見れば、言われたとおりもうとっくにホームルームは終わっている時間だった。
伊作は待っていてくれたのだろう。
「随分寝てたね。途中寝苦しそうだったけど、夢でも見てたのかい?」
「…ああ、見た、」
「やっぱり?」
「懐かしい、夢だった」
そう、それは懐かしい夢だった。
「懐かしい夢?留さんの小さい頃?」
「いんや、それよりずっと前」
室町時代だとは流石に言えない。
「ずっと前?え?それって?」
どういう意味だと、頭をうんうんひねる伊作を軽くこづきながら、一緒に教室を出る。
ああ、そうか、お月様は俺の願いを叶えてくれたのか。
「…よし、」
「留三郎?」
「伊作、今日月見しようぜ」
「へっ?」
「団子はまあ適当にスーパーで買って、20時に俺ん家集合な」
「え?え?」
「よしっ、そうと決まればスーパー寄るぞスーパー」
おもむろに月見をすると言い出した俺に、伊作が目を白黒させる。しかし、俺はスタスタと歩いていく。
「ちょっ!さっきといい、留さんどうしたのさぁああ?!」
(今夜は二人でお月様にお礼を言おう!)
end.
2011-8-17 20:44
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