「ぐすっ、ひっ、あっ、うっ、うっ」
痛いなあ。
じくじくと痛むそこに手を当てると、ぬるりとした感触があった。きっとたくさん出血したのだろう。残念ながら、もう俺にはその傷を確認するために顔を上げる力も残っていない。
「じゅう、だい、め…十代目ぇ…」
ああ、泣かないで隼人。
せっかくの男前が台無しだよ。
「…ボス、お願い、逝かないで、私たちを置いていかないで…」
「彼はこんなところでくたばる魂じゃありませんよ、凪!だから、だから、早く元気になりなさいボンゴレ!」
ごめんな、俺のからだはお前が思ってるより、ずっと弱かったみたいだ。
置いていかないよ、って言いたいのに口から出るのはヒュウヒュウという浅い息。
「なあツナ、俺、お前がいたからここまでこれたんだ。俺はほんとはあの屋上で死んでたはずなんだ、お前がいたから生きてきたんだ。だから、お願いだから、生きてくれ、なあ、ツナぁ…!」
こんなにずっと一緒にいたのに、俺が彼の涙を見たのは初めてだった。そして、それが俺が見る最初で最後の山本の涙なのだ。
笹川のおにいさんも、雲雀さんも、ランボも、ラルたちも、みんなみんなクシャクシャの顔して泣いていた。
いや、違う、
ただ一人、
俺の最強で最恐の家庭教師、
リボーンだけは、
いつもと同じ、眉一つ動かさない無表情だった。そのいつもと変わらないその顔が、いつも口を開けば、俺を馬鹿にする言葉しか吐かないその顔が、今の俺には嬉しかった。
「…ツナ、」
だから、
「…お前は、俺が育てた自慢の弟子だ。…お前は、立派にボスとしての勤めを果たしてきた」
そんな柄にもない褒め言葉を言わないで。
「…お前は、馬鹿だから、気づいてねえだろうが、お前は、」
だから、
「俺たちの全てだった」
泣かないで。
リボーン、泣かないでよ。お前はそんな奴じゃないだろ、笑ってよ。
いつもみたいに「いつまで寝てんだ、ダメツナ、さっさと起きろ」って俺のこと意地悪く笑いながら叱ってよ。
「じゅうだいめ、じゅうだいめぇ、いかないでください、おいていかないでくださいぃい…」
ありがとう、隼人。
ずっとこんな俺のそばにいてくれてありがとう。俺を慕ってくれてありがとう。
ごめんね、もう君の涙を拭えないや。ごめんね。
大好きなみんなが泣いている。
泣かないで。
ダメツナってみんなに馬鹿にされてた俺なんかのずっと傍にいてくれたみんな、
ありがとう、
ごめんね、
置いていくことになってしまってごめんね
ありがとうとごめんねが言いたいのに、俺の口はもう声を出すこともできない。
瞼が重くなって、
体が不思議と軽くなる。
ああ、お別れだ。
手を振ることも、言葉を伝えることも、できないままお別れなんて。
ごめん、
ごめんね。
またね。
end.
(せめて、みんなのその悲しみだけは俺が持っていくから)
◇突発的に書いてみた死ネタ。書いてる本人が辛くなった罠。つっ次はもっと明るいやつををを!!!