それから3日。
もう何日も経ったように思える。それだけ、俺の頭の中にはギンジさんのことが渦巻いていた。
こんなにも頭から離れないなんて。
確実に俺の中で、ギンジさんは大切な存在になっていたんだ。
…それは、間違いようのない事実らしい。
独りで悩んでいても仕方がない。
…というより、もう限界だ。誰かに聞いてほしかった。
俺は今まで恋愛とかしたこと無くて、こんな風に悩むこともなかった。
だから、ルークの悩む気持も、今まで俺に声をかけてきた女の気持も理解できなかった。
でも、今なら全部分かる気がする。
「ルーク…いるか?」
俺は隣の部屋のルークに助けを求める覚悟をした。
…今から、俺は。
俺の気持ちを認めに行くんだ。
「ん?アッシュ…何?」
普段、俺からルークの部屋に行く事は稀だ。ルークも少し珍しそうに首をかしげている。
とにかく部屋に入れてもらい、ベッドに腰かけた。
机を見ると、教科書に参考書に書きなぐったノート。今まで勉強してましたって感じバリバリの消しゴムのカス。
…お前も、変わったんだな。
好きな人に認めてもらう為に。
ルークはガイさんの事を諦めたって言った。
でも、それは建前だって、痛いほど分かる。
同じ感情を知った今の俺なら。
だが今は、ルークの心配をしてやれるほど俺に余裕はない。
顔に出ているんだろう、ルークの方から聞いてきた。
「…アッシュ、もしかしてギンジさんの事で悩んでるのか?」
流石双子だ。
聞くまでもないってか。
覚悟を決めて答えた。
「…俺、俺自身がどう思ってるのか分からねぇ。」
分からないなんて言うのは嘘。
俺は、この気持の答えを知っている。
なのに分からないふりをして、認めさせてほしいんだ。
ルークに。
「わからねーって、お前。ギンジさんの事が嫌で悩んでるのか?」
「いや…じゃねーよ。」
「じゃあ簡単だろ?男から想い寄せられて嫌じゃなくて悩んでるならスキってことしかねーじゃん」
そーなんだよ。それしかないんだよ。
俺は…
俺も、ギンジさんの事が好きだ。
だから、悩んで迷って、…不安になってるんだ。
暫く答えられずに無言でいたら、ルークが痺れをきらして言ってきた。
「好きなんだろ?ギンジさんの事が。」
「……だって…俺なんか。」
不安だ。喉が乾く。焦る。心の奥がじわじわと疼く。
言葉にしたら、きっと、もっと現実味を帯びて俺にのしかかる。
でも、その不安はもうこの身から漏れ出てしまうくらいに心の中で膨らんでいる。
ついに、勝手に口をついて出てしまった。
「…絶対、…からかわれてるだけだから…。」
「からかわれてる?」
俺の発言を不思議に思ったのか、ルークは身を乗り出して質問を返してきた。
「なんでそう思うんだ?」
「…ギンジさん、この前電話かかってきた時飲んでたみたいでさ。周りは女の声ばっかだし。思い返してみたら、俺といる時もよく女から電話掛ってきてたし…」
ルークは俺の言葉を聞いて少し考え込んだ様子だった。
俺はこの事実が不安で仕方がない。
けど、ルークの第三者的立場で客観的に見たらまた違う答えがあるのだろうか。
おれは、その俺の主観以外の答えをどこかで期待していた。
「そ、そりゃ、ギンジさんモテるから。ガイさんと張るくらいあんなイケメンなんだぜ?かかって来ない方がおかしーって。」
ルークの返答は、少しどもっていて何か隠してるようにも聞こえた。
…そんな答え方されたらますます不安になるじゃねーか…。
やっぱり、みんなでグルになって俺をだましてるのか?
いや、ルークがそんな事するわけねーし。
しばらく沈黙が続いたが、インターホンの音が静寂をかき消した。
ガイさんが来たみたいだ。
俺は不安を抱えたまま、部屋に戻った。