心もとなしってこういうことなんだろうか。
授業も右から左だし、部活も暴投したりエラーしたり。
もちろん監督に葛入れられまくった。当たり前だ。こんな大事な時に。
もうすぐ甲子園だし、授業だって受験なのに耳に入らない。
こんなにも俺の頭の中を占めてるのは、他の誰でもない。
…ギンジさんだ。
あの電話から一週間。
もちろん毎日電話は来る。
今までもそうだったのかもしれない。俺が意識し始めたから気になりだしたのかも知れないけど、たまにギンジさんの近くで女の声がする。通りすがりの女の声じゃない、ギンジさんと一緒にいるって分かるようなカンジ。
こんなこと思いたくないんだけど、最悪の考えが頭ん中渦巻いてどうしようもない。
…おれ、からかわれてる?
本当は彼女が居るとか?
ただでさえモテるんだから、たまには男にでも手ぇ出してみようとかそんなノリ?
嫌な考えばかりが浮かんで来る。そんなことはないと信じたいのに。
でも、待てよ。
それならそれでいいじゃないか。
だって、男と付き合うなんて初めから無理なんだし。
騙されてたのはちょっとシャクに障るけど、これはこれでいいんじゃないか?
…って、思いたい。
思いたいのに。
どうしてこんなにも不安で焦って、心の中がもやもやで。
……そんなはずはない。
確かにギンジさんが真剣そうだったから、初めから突き放すのは可哀相だしちょっと考えてみようとは思ったけど。
俺が…まさか俺が。
時が止まったように思考も停止した。
ここから先を言葉にするのは危険だ。
この感情がリアルに形になってしまうから。
…ルークの事を思い出した。
ルークがガイさんの事を好きだと気付かせたのは俺だ。だって、明らかだったから。
でも、その気持ちを認めた時のルークはどんな思いだったんだろう。
俺は最低だ。弟には堂々と言えた事なのに、自分自身は怖くて踏み込めずにいる。
…だって、今認めてしまったら…
もう後戻り出来ない。
それに、ギンジさんには女が取り巻いていて、俺はただの遊びかもしれない疑惑も浮上中だってのに。
…そうだ、絶対に認めちゃだめだ。
絶対に。