いつものように、ルークの家で授業が始まった。
今日のルークは少し落ち着きがない感じで、妙な違和感を覚えた。何か俺に遠慮してるような…。
なにかあったんだろうか?
それに、言わなきゃいけないことがある。…あまり言いたくないことなんだけど。
明日から、少し休ませてもらうって。
ずっと聞き出せず、言いだせずに結局、あと少しで授業が終わるところまで来てしまった。
どうしよう…言うなら授業が終わってからの方がいいよな?
…でも、今日はもうすぐ…
こっちに来ている姉さんを迎えに行かなきゃならない。
ルークに出した問題を解かせながらそんな事をずっと考えてたら、携帯が鳴った。
「あ…!ルーク、ごめん。もしもし。」
『もしもし、ガイ?今、岐阜駅に着いたんだけど…』
案の定姉さんからだった。
「分かった、迎えに行くから。20分位で行けると思うから、そこで待っててよ。じゃあ。」
女独りでいつまでも待たせられないし、心配だからすぐに行くしかない。
「ごめん、ルーク。じゃあちょっと早いけど終わるか。ここ、宿題にしとくから次の日までにちゃんとやっとけよ?」
「…はい…。」
ルークは相変わらず元気がないような返事をした。
…マジ、気になるんだけど…。
ああ〜、何でこんなタイミングで電話してくるんだよ、姉さんも…!
でも、言う事だけは言わなきゃ。
「ああ、それと、暫く来られないんだ。一週間もかからないと思うけど…。また連絡するよ。」
結局、ルークを気遣うような事は何一つ言えないまま、姉さんを迎えにタクシーで岐阜駅に向かった。
姉さんは長い金髪だから、遠目でもすぐに分かる。
…なんだか、両手にビニール袋抱えてるけど…何で初日に大量に土産買い込むんだよ、あんた…。
「姉さん。楽しんできた?名古屋」
「うん、久しぶりに来たら新しく建ったところいっぱいあったわ。いつの間にこんなに駅まわり変わったの?すごいわ〜都会になったみたいで!」
「そりゃ、郡上に比べりゃ都会もいいとこだよ。それより、何をそんなに買い込んでるんだ?」
「え?大須ういろうと宮きしめんと山本屋の味噌煮込みと…あ、あと世界のやまちゃんの手羽先買ったの。今夜の夕食にしようと思って」
「……誰がそんなに食べるんだよ。全部生ものじゃん…。」
姉さんは男勝りなところがあるけど昔からちょっと天然で、俺としてはそれが不安要素のひとつでもある。
まあ、田舎には婚約者も近くに住んでるから少しは安心だけど。
姉さんとバスに乗り込み、部屋に入れた。
「あんた、あいかわらず殺風景な部屋ね…。まだ彼女作らないの?」
「…ほっといてよ。俺には俺のポリシーがあるの!」
姉さんの買ってきた手羽先の紙パックを開けながら答えた。
「も〜、あんたはうちの一人息子なんだから。しっかりしてもらわなきゃ困るわよ。」
きた。俺の一番苦手な話だ…。
正直長男としての使命だとは解っているが、そんなことまだ考えられない。
俺にとって重荷以外の何物でもない。
「そんなに心配なら、姉さんが養子にもらえばいいじゃん。俺はそれでもいいよ。こっちで就職することになったし…。」
「え〜!!??家はどうするのよ?何で何も相談せずに決めちゃう訳〜?」
姉さんの言う事はもっともだ。でも…。
俺には、俺の人生がある。
きっと、父さんと母さんもわかってくれると思うんだ。
…でも、なぜだろう?
姉さんに『彼女は?』って言われた瞬間から。
俺の中にずっと居座る存在がいる。
今、何してるんだろう?
どうして今日はテンション低かったんだろう?
これからしばらく会えないのに…。
気になって仕方がないよ。
…ルーク…。