栄口は、気付いてくれるだろうか。



今日が栄口の誕生日だということは、もちろん知っている。しかも、2ヶ月も前からプレゼントについてあれこれ考えてきた。

栄口のすきなもの。
野球?本?生クリーム?(それは俺だ)
考えれば考えるほど、答えは決まらない。
だったら俺のあげたいものは?
でも俺があげたいだけで栄口が欲しいとは限らない。それでもいいのかな。

考えた挙句、ひとつの結論に辿り着いた。



「栄口、ハッピーバースデー!」

「なんかこんなところで言われると照れるな」

部活帰りにいつも通る公園のベンチ。別に学校でも良かったんだけど、今日はやっぱり二人になりたくて無理を言って少しだけ寄ってもらった。

「これは俺からのプレゼント」

そう言って、スポーツバッグとは別に持っていた紙袋の中から、歪なリボンのかかった10センチ四方くらいの箱を取り出す。

「そんなのいいのに……」

「よくないよくない。さ、開けて?」

そうっとだよ!と念をおす。忠告通り栄口は少し歪にかかったリボンを恐る恐る解き、箱を開いた。

「わ、ショートケーキ!」

「そうだよー!俺が作ったの」

「まじで!?水谷が!?」

「まあ、母さんと姉ちゃんにだいぶ手伝ってもらったけど……ま、そんなことより食べて食べて!」

フォークをさしだしながら促すと、栄口はいつものように「うまそうっ」と言ってから食べ始めてくれた。

「これ、スポンジから作ったの?すげーうまいよ!」

「ほんと−!良かったあ」

安堵の言葉を洩らしながらも、神経はあるひとつのことに向いていた。
それは、ケーキの中にクリームと一緒に挟んだ、あるもの。
作るときに入れなくちゃいけないから、母さんには不思議がられたし、姉ちゃんには「今度紹介してよね」なんて言われた。それでも、子どもが悪戯を仕掛けるみたいな気分でわくわくしていた。

それなのにどうして今、こんなに緊張してしまっているのだろう。栄口がフォークを入れる度に、心臓がきゅっと縮まるような気がして、胸がどきどきする。

早く見つけてくれないかな。でも、見つけてほしくない。

栄口が美味しそうにケーキを頬張ってくれているのを見ながら、ひとり悶々と時が過ぎるのを待っていた。

突然、カチン と金属と何かが触れ合うような音が聞こえた。

「あれ?何、これ」

そういってクリームの中から出てきた塊を救い出し、包んであったラップを解く。

「ゆ……び、わ」

真っ赤な顔をしながらゆっくりとこちらを向き直る。この空気にどうしても耐えられなくなって、冗談で誤魔化そうとしたが、通じなかった。

「去年あげたかったんだけどね、16歳だし」

婚約指輪みたいな?と、ダメ押しとばかりに笑いかけてみせる。
俺は男だから18だよ、なんて同じように冗談で返してくれればいいと思っていたが、しばらく待ってみてもその気配はない。

少し心配になって恐る恐る顔を覗くと、栄口は耳まで真っ赤にしながら小さな声で、けれどちゃんと聞こえるように「ありがとう」と言って、それからふわり、と笑ってくれた。


誕生日おめでとう。
願わくは、今日の日は今までで最高の誕生日でありますように……。