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『宝島』

スティーヴンスン Robert Louis Stevenson
村上博基:訳


 思い立ったら即行動。頭が切れて、勇気があって、持ち前の運の強さでどんな困難も乗り切るジム少年。


 聡明な医者というだけでなく、銃を片手に敵に立ち向かう度胸も十分。平等の精神を携えた心やさしきジェントルマン、ドクター・リヴジー。


 冒険への好奇心は若者にだって引けを取らない。思い込んだら一直線でありながら非があればすぐに認める素直さも持った、大地主のトリローニ。


 広い視野と確かな状況判断力から発せられる指示は的確そのもの。冷静でいつだって頼りになる、スモレット船長。


 己の利益のためなら裏切りなんて朝飯前。悪逆非道でありながら、どこか憎めない片足のコック、ジョン・シルヴァー。


 彼らを乗せたヒスパニオーラ号は、悪名高き海賊フリントの宝を求め、地図が示す島へと舵を取る。すべては、ある日ジム少年の前にキャプテンと名乗る男が現れたときからはじまった。


 ジムとその両親が切り盛りする《ベンボウ提督亭》は、海沿いの街道にぽつんと建つ旅亭だ。その店先にやかましくやってきた老水夫がキャプテンだった。大柄な男で、褐色の肌に頬の傷だけが生々しく白く、タールまみれの長い辮髪を上着の肩まで垂らし、船員用衣類箱を乗せた手押し車を後に従えていた。


 普段は無口なもので、昼間は単眼鏡を片手に入江の岸や崖上をぶらぶらし、夜になると食堂の隅にある暖炉の前に腰かけて、おっかない目をして強いラムの水割りを黙々と飲む。ラムをこれでもかというほど飲んだ晩には、大声で船乗りの歌を歌ったり、船乗り時代の恐ろしい体験談を話しては始終他の客を怯えさせたりもした。誰もが怖がったそんなキャプテンのもつ宝島の地図を、ジムは偶然手に入れるのだ。


 多くの冒険小説、マンガ、アニメが世に出回る現代において、冒険物語の王道ともいえる本書は読者にとっていささかベタだと感じられるかもしれない。しかし、だからこそ味わえる高揚感も魅力の一つだ。



光文社古典新訳文庫
本体686円+税)

 

 

 

新訳 ハムレット

シェイクスピア
河合祥一郎/訳


毒蛇に噛まれたことによる前王の不慮の死後、跡を継ぎ玉座に着いたのは前王の弟でありハムレットの叔父である、クローディアスだった。
比類なき立派な男であった父王に変わり、王位を手にいれたのは比べるのもおこがましい愚劣な男。王位だけに飽き足らず、悲しみに沈む王妃をたぶらかし妃としたその姿を、また安易に再婚を果たした母自身をハムレットは快く思っていなかった。
 
そんな折、腹心の友ホレイシオから毎夜あらわれる亡霊の話を聞かされる。奇妙なことにその亡霊は、亡き父王に瓜二つだというのだ。ホレイシオの話に胸騒ぎを覚えたハムレットは、今晩見張りに立つという友人と共に、その亡霊に会うことに決めた。
ところがいざ現れた亡霊の口からハムレットへ伝えられたのは、忌まわしい真実だった。

「この世の箍が外れてしまった。なんという因果だ、
俺が生まれてきたのは、それを正すためだったのか。」

父の死の真実と憎むべき犯人を知ったハムレットは、亡霊に叔父クローディアスへの復讐を誓うのだった。
 
その夜以後ハムレットは気が狂ったふりを演じ、王を手にかける機会をうかがうも、好機はなかなか訪れない。そこには復讐を誓ったにもかかわらず、すぐにそれを果たすだけの決断力と行動力をハムレットが持ち合わせていなかったことも、少なからず関係していた。

しかしながら何よりまず、亡霊の言葉に全幅の信をおくには証拠が少なすぎた。そこで折よく城を訪れた役者たちに、父王殺害に似せた芝居を演じさせることを思いつくのだった。
 
人知を超える使命をその身に受けたとき、ハムレットの悲劇ははじまった。テンポ良く展開される劇中で舞台劇を演じることの二重性、狂人を演じるハムレットにみるアイデンティティなど、筋書きのみにとどまらない魅力が、読む者の想像力を楽しませてくれる。


角川文庫(\476)


有名で古典だからと気負って読み始めましたが
すらすら読み進めることができました。
すごくおもしろかったですよ!

『西瓜糖の日々』

リチャード・ブローティガン 作
藤本和子 訳


種をまいた曜日によって果肉の色が変化する、そんな西瓜をご存じだろうか。


月曜日 赤い西瓜
火曜日 黄金色の西瓜
水曜日 灰色の西瓜


たとえば、こんな具合だ。毎日違った色で輝く太陽にあわせて、違った色の実をつける。西瓜はもちろん食べてもかまわないけれど、「そこ」ではただの食べ物ではない。収穫された西瓜の果汁は、工場で純粋な砂糖になるまで煮詰められ西瓜糖に姿を変える。西瓜糖の世界では服も小屋もガラスも、この西瓜糖でできていた。

言葉もまた、西瓜糖だ。この本で彼はあなたに、西瓜糖の言葉を使って西瓜糖の世界のことを語ってくれる。アイデス〈iDEATH〉という名のコミューン的な場所のこと気のいい友人たちのこと、夜の散歩のことランタンのこと。彫像のこと忘れられた世界のこと、今はもういない虎たちのこと。彼らの気に入っている、西瓜糖で築かれてきたいろいろなことを少しずつ。


うまくゆけばいいと思う。


あなたがいるところは遠すぎるうえに、自分にあるものは西瓜糖だきりだからと、そう話す彼には決まった名前がない。あなたの心に浮かぶこと、それがいつでも彼の名前なのだ。あなたの中にいる彼が見た西瓜糖の世界に、あなたは何を見るだろう。

アメリカの詩人でもあったリチャード・ブローティガンが紡ぎだしたこの小説は、小説であるはずなのにまるで一冊の詩集を読んでいるような気持ちにさせてくれる。ちりばめられた言葉たちは口数少なく、それでいてたくさんのことを語りかけてくる。浮き草のように危うく漂いながら我々の中へと流れ込んでくるのだ。読み進める中でそれぞれが思い浮かべる西瓜糖の世界に、同じものはないはずだ。そこに感じる脆さや美しさはきっと、彼の名前があなたの心に浮かぶそれぞれのことであるように、あなた自身の中でこそ触れることができるものなのだ。


河出文庫(\760)
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