夕方5時過ぎ、上りの中央線には語りつくせないほど思い出があったりする。日野駅を過ぎて多摩川にかかると夕日にあてられて車内が真っ赤になる。薄汚れたサラリーマンも地べたに腰を下ろした女子高生も一枚の絵になって、ブレザーのおれたちはいつも無言になった。八王子の山の向こうに陽が落ちる光、刺すような赤、まぶたの裏に焼きつくオレンジ。話し声もウォークマンから漏れる雑音も、鉄橋に揺れる−ガタンゴトンガタンゴトン−線路がカーブするたびに影が躍る。
たびたび人が死んだ。
八王子−三鷹間は線路がほぼ直線で、スピードも出るため飛び込み自殺はしょっちゅうだった。人は朝より夕方に死んだ。月に一度は本格的に車両が止まって何時間も動かなかった。死体は何度か見かけた。乗っていた列車が人を轢いたこともあった。ホームまで飛んだ腕をみたことがある。なんとなくうそ臭い光景だった。
有名なオレンジ色の中央線は201系というらしい。今は銀色の233系なんだってね。新宿から出ていた青い中央線はもう廃車になったかもしれない。三鷹−立川間の高架工事もあってあの日みたいな落陽はもう見れないのだろうか。

あの日、きたないベッドタウンをはしる、仕方ないおれたちを運ぶ、たまに人を殺す中央線が好きだった