渇いていたんだと思う。

喉も、身体も、心も。


満たされたくて、認めたくなくて、作り笑いだけ得意になって。

嘘と欲と戯れの睦言を無理矢理に塗りたくられた頃、口をついて出た本音にますます死にたくなった。




*****




(…殺してくれだなんて。あんなの、思い出すのもうんざりするから話題にしないで欲しい。)


「…次、死なせろとか言ったらほんとに死なす。」

「分かった分かった、好きにしてよ。」

「そうじゃねぇだろ。」

「ちょ、っと!寒いよっ。」


勢いよく被っていた布団をひっぺがされて、明るいとこではあんまり見たくない事後の自分の身体が嫌でも視界に入る。
こびりついた体液の所為で、外気がひんやり冷たい。

なんとなく後ろめたくて、真っ直ぐに見下ろしてくる瞳と視線は合わせられなかった。


「…分かったって。もういいよ。」

「おい、」


剥がれた布団を奪い返して布団にくるまると、隙間から侵入してきた手のひらに痣の浮いた手首を掴まれた。

痛い。僕は別に痛いの好きな訳じゃないからそうゆうことされても嬉しくないよ。


「……宿主。」

「なんだよ、まだあるの。」

「………だから…、あれだ。……手当てだけしといてやる。」

「…………何それ、なんで急に優しくなんの。」


これがアメとムチですかー、なんて。
話題が変わったのにほっとしながら布団から首だけを出して言う僕の軽口をよそに、うるせぇ、と言いながらバクラがベッドサイドにあった小さなテーブルの引き出しから包帯と消毒液を取り出す。
そんなものまであるなんて、ほんとこの部屋って便利。

上半身を起こして腕を出すと慣れた手つきで傷口を消毒しながら、最初からそうやって大人しくしろよとかぶつぶつ言われた。
お前ねぇ……誰が好き好んでレイプされるか。

一応、こんなトコに居ていくら傷が増えたって現実には関係ないんじゃないの、って聞いてみたけどどうやら精神ダメージとして影響が残るらしい。
自分で傷つけておいて、やけに几帳面に包帯を巻きながら答えるバクラが少し可笑しかった。


「ははっ、やさしーんだね?どうせなら最初からシないで欲しかったけどねぇ。」

「俺様は欲しいものは力ずくで手に入れる主義だからな。」

「うわ…ますます最低だね。いくら溜まってても、余所でこうゆうことしないでよね。捕まるのは僕なんだし。」

「はっ、余所でするかよ。俺様が興味あるのはお前だけだからな、光栄に思えよ。」

「…………それは知的欲求的な?肉欲的な?」

「残念ながら後者だな。因みにお前に拒否権はねぇ。」


ふむ。リングに宿る意志とやらは、性格も破綻してたけど性的にも倒錯していたってことだ。
なるほど納得、事は深刻だ。


「やだなぁ…これで愛なんて芽生えちゃったらリアルで昨今の少女マンガを体現しちゃうじゃない。」

「なんか言ったか。」

「なんでもないよ。」


綺麗に巻かれた包帯が眩しくて。
手首に絡まる体温がこそばゆい。


(僕のものじゃない、僕の身体。)


あんなに激しいのも、こんなに優しいのも、きっとこいつの気まぐれなんだろう。
そうでなきゃ、身体だけ繋いでなんの意味があるの。


(気まぐれのお遊びなんて興味ないんだよ。ゲームは本気でやるから楽しいんでしょう。)


傷だけつけて満足するなんてどうかしてる。
どうせなら徹底的に壊してしまえばいいのに。


「ねぇ、誰かさんがあほみたく締めあげた首もすっごく痛いんだけど。」

「あー?舐めときゃ治る。」

「っぎゃっ!舐めないでよばか!」

「ってぇな髪掴むんじゃねぇよ!」


綺麗な髪。僕の銀髪。
同じカオ、同じ声。
僕を犯したのは、僕が見放した、僕自身の身体。

これがこんなにあったかかったなんて、知らなかった。


「てめぇ、今に見てやがれ。ヨすぎて声も出ねぇ位啼かせてやらぁ。」

「やれるもんならやってみなっての。」

「上等だコラ。」


どうしようもない日常で、もしかしたらこいつだけが僕の退屈を紛らわせてくれるかもしれない。

諦めていたものを、埋めてくれるかもしれない。
満たしてくれるかもしれない。


(この感情はきっと恋なんかじゃない。)


歪な自己愛でも恋愛ごっこでも、それでも。
ねぇ、やるからには徹底的にやろっか?



「そんなに言うなら、僕が自分で脚開くように口説いてみなよ。お前が居なきゃ生きてけないくらい、どろどろにお前のこと愛させてみなよ。そうして飽きたらいちばん酷いやり方で捨てればいい。そしたらいつか、」


半端な優しさより、執着と依存と、死にたくなるくらいの絶望を見せて。

捨てても捨てられても、それでも欲しくて欲しくて仕方ないくらいになれたら。



「いつかほんとに、愛になるかもね。」




(新しい傷が出来る度に、こっそりと寝ている僕の身体を乗っ取って。包帯もまともに巻けない僕の代わりに、丁寧に薬を塗ってきれいに包帯を巻き直してくれていたお前のことを僕はまだ知らない。)





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色々言いたいことはあるけどもう割愛。
最初は一つの記事にするつもりだったけどあんまり長くなったので無理くた前後編に分けました(^ω^)
宿主をいじめられっこ(?)にしてすいませんバク獏は幸せになるべきなのほんと…