「あ、やべ…、せんぱ…」
「しー、静かにしないと見つかっちゃうよ。」
息を切らして身を焦らす彼をもっともらしく嗜めて、更に追い詰める様に口内を舌で犯す。
昼休みもそこそこに、次の実技の授業の予習をしようと他の生徒よりも早く校庭へと向かおうとした真面目なこの子を、無理矢理に空き教室に連れ込んで唇を奪ったみっともない私。
嗜められるべきは間違いなく私の方だけど、それをすることの出来る人物は頬を染めて息継ぎをするのに必死だったから私を叱る人はいなかった。
キスとも言えないような乱暴な行為に、藤内は抵抗しなかった。
…というより、させなかった。
それより早くに、両手をきつく捕まえたから。
(…おあずけなんて、性に合わないもの。)
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昼休み、多くの生徒たちで賑やかになる食堂でのこと。
同学年の級友たちに囲まれて食事をとる藤内とは別の、近くの机に席をとって。
トレイに乗せられた料理を口に運びながら、それとなく藤内の様子を計り見る。
あの子が周りの子たちと会話をしながら、笑いながら、食事を進める和やかな雰囲気の中。
私はといえばあの小さな口が食べ物を食み、白い華奢な喉を通って嚥下される様を見るだけで欲情していた。
まるで獣みたい、と自嘲する声が聞こえた気がしたけど。
心臓に火を付けられたような想いを抱え欲に浮かされた頭では、既にあの唇をデザートに頂くことが決められていた。
次の授業が校庭での実技の授業だということも、藤内が予習をしたいからと言って先に輪を離れるのも盗み聞くように伺って。
空き教室であの子が通るのを待っていた私は、ただの飢えたケダモノだった。
(そうして、何も知らずに廊下を軋ませる藤内の手首を捕まえた。)
「ねぇ、藤内。私、自分がこんなに浅ましい人間だなんて思ってなかった。」
「……ん、…はぁっ…」
「そうさせたのは、藤内だよ。」
たっぷりと口内を犯して唇を離すと、唾液に濡れ、薄く開かれた唇がすごく扇情的で。
また食らい付きたくなる衝動をどうにか押さえる。
(こんなに顔を赤くして。そんな反応されたら余計に苛めてみたくなるじゃない。)
誘惑に負けそうになるのをこらえて、座り込んでしまった藤内の乱れた前髪を整えてあげるときゅっと目を瞑るのがまた可愛かった。
「…誉めてね?藤内。次の授業まであと三分あるから走れば間に合うよ。」
「…っは、走ればって…っ」
「授業に遅れさせたら先輩失格でしょう?続きは後でね。」
艶やかな黒髪を一撫でして、ごちそうさまとだけ言い残し部屋を後にした私は薄情だと言われるかもしれないけど。
(だってもうあと数秒でも一緒に居たら、つい最後までしちゃいそうなんだもの。)
―結局その後、しばらく立ち上がることが出来ず授業に遅れた藤内からは、誉め言葉の代わりにしっかり小言を頂いたのだった。
(…けど、もう少し手加減して下さいってそれ、誉め言葉にしか聞こえないんだけどなあ。)
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綾部がただの変態(^ω^)