りょうちな
崚弥くん目線の、中2設定。
千夏のと、対になってたらいいなー。笑
深川崚弥→千夏に片思いしてたけど小5のとき転校した。
立花千夏→崚弥と離れてからは、親友のしおりと付き合ってる。ビアン。
ずっと昔から思いを寄せていた奴がいた。それは、なんといえばいいか…、叶うはずだった片想い。二人でずっと一緒に時を同じくしていたら、きっと二人きりの世界は出来上がっていた。
夏の日差しが懐かしい、ここは雪だらけの田舎町。学校を休み、雪かきをせねばいけない我が家に都会育ちの父と母と妹はくたくただとため息を付くので、俺がしぶしぶ雪かきを買って出るのだ。
重く、しかしふわふわな積もったばかりの雪を落とす、落とす。
外はこんなに寒いのに、雪かきをすると汗が止まらず、それで腕を止めると北風が恐ろしい勢いで体温を奪って行くから、今は腕を止めずに雪をなくすことが大事だ。
「おー、深川さんちの崚弥くんかぁ。精が出るなァ!」
ふと呼ばれ、顔を上げて辺りを見回すと、三軒隣のおじいさんだった。おお、こんなとこまで道路ができている…さすが長年住んでるだけあるな。
「崚弥くんなぁ、倉庫に餅あげたからたあんと食べなぁよ。」
「っあ、ありがとございまーす。」
汗をぬぐい挨拶を返すと、おじいさんもニコニコしながら、手を振ってくれた。それから、重そうな台車を引きながら雪かきをしつつ次の家の道をゆくおじいさんを見てると、自分の家の周りでひいひい言っている自分が馬鹿らしく思えて、もう一度真面目に雪に向かった。
しばらくして、あらかたカタがついたので倉庫に置いてあるであろう餅を取りに屋根から下りる。
俺の家の倉庫は、家を買った時にもともと付属していて、昔住んでた人が残していった漫画なんかもあって、暇つぶしにはちょうど良い場所だった。夏限定だけど。倉庫には新しく俺の家族のものも置かれ、なかなかの賑わいを見せている。階段のすぐそばに餅があったので、明日には何か返さなきゃなと思いながら餅を手に取った。
「写真、」
餅をどかすと、それを狙っていたかのように俺の手元におりてきた1枚の写真。少し古びてはいるが、どうやら俺の家の写真で間違いないらしく、小学生の俺がそこに写っていた。
「わ、こいつって…」
俺の横で楽しそうに笑う二つ結びの女の子、そいつは付き合ってる彼女が霞むくらい美人で、それなのに男の遊びとか好きだし、有る意味女子からは一目置かれてたけど、小5の俺たちはその意味を知らなくて、ずっと俺の隣にいてくれた幼馴染の。
そう、立花。立花千夏だ。
立花との写真があるなんて思わなかった。もしかして、他にアルバムなんかもあるかもと、埃っぽい階段を上る。もちろん写真を手に持ちながら。
「なんだよこの字、きったねー。小5の俺ってマジで頭悪かったんだな。」
昔の自分を笑いながら、アルバムのタイトルに目をやる。『おれと、ちなつのこうかんにっき』ふん、あの時みんなの前で僕だったのに。
ページをめくると、一ページ目は立花だった。しおりかあいるにもらったらしいかわいらしいメモには、文章こそ拙いが、字としては綺麗な字。周りの女が丸文字だったから、立花の字が浮いてたのを思い出して、笑う。そんな字で、初めは愚痴から、つらつらと連なる俺に話しきれなかった話たち。
『男子とさ、ドッジやったらしおりがね怒って。なんなんだろーね、でもウチりゅーくんとあそぶのはだいすきだよ。あ!りゅーくんのことはそこまで好きじゃないかも(わら』
他愛ない話、俺たちの関係はそれほど幼いもので。故に、ここまで印象に残っているのだろう。あいつは、今でもまだ俺の心に居残り続けてる。止まった夏として、未だに。忘れられないんだ。
すこし郷愁に浸って、次のページをめくる。あ、立花の写真。誰が撮ったんだろ…って俺か、インスタントカメラを買って、よく撮ってたなぁ。立花にケータイで撮れば?って言われても、写真を頑なに取り続けたのは消えるデータより、残る写真が良かったんだろうな。ナイス、昔の俺。なんてガッツポーズを決めながら困り顔の立花の写真を見る。
にしても、こんなの交換できるのだろうか、こんなの見たら確実に立花は怒る。ならきっとこれは交換日記ではないし、初めの立花の文は手紙か何かだろう。交換日記という名目が良かったんだな…俺。我ながらかわいそうだ。
あ、まあ手紙。ん、これは立花の字じゃない。つかちゃんと崚弥になってる。感激しつつ、文に目を向けると、英語だった。なんで、英語…あ、あー!これ、英語の授業でやった手紙だそうってやつじゃ…わあどうりで崚弥なわけだ。未来の自分に当てた手紙…、先生に出さずに隠し持ってたのか。呆れるぜ。
文面はなかなか子供らしく読み解くのに苦労する文じゃなさそうだ。英語苦手だけどきっと平気だな。えーっと。
「I……俺、love'n it!…それをらびん?…あー、マックか。で、なっもう諦めてるよ英語…ローマ字な…TACHIBANAGA…loved…but…whi?たちばなが、あいしてた…でも?うひ?なんじゃこれ。」
読んでるうちにじわじわこれを書いてる時のことを思い出してこっぱずかしくなってきた。あぁ、そうだったこの時にはもう転校するの聞かされてて、そんで、大人の俺がまだ立花を好きでいてくれると信じて書いたんだった。
頭に浮かぶ夏の立花を思い出して、顔を真っ赤にする。またなと言ったまま消えてしまったことを思い出して、また悶える。あぁなんでもっと気の利いたことがいわなかったんだ俺!というか、好きだって伝えなかったんだよ俺。こんなに好きなのに、こんなに好きだったのに…くそ。
くやしくて、思いのままにアルバムをめくりまくってやった。最後のページは、夏休みの思い出。そうだった…小6の夏休みの間にさよならしたんだ。
『りゅーくんやばい、下真っ赤になった…うへぇ。』
『かわいい。』
『は、はっ…?なにいってんの…あつい?かき氷たべる?』
『食べさせて、』
『ばか、』
立花と2人で食べるかき氷、つか二人きりの夏祭り。ガチで幸せだったな。
思い出すと、虚しくなって。あぁ、なんで俺は真冬にあの夏の思い出を思い出してるんだろう…ばからしい。
でも願わくば、今一度立花と会えたらなんて…。今更そんなことを思ってしまうんだ。
「あの街に、戻れたら。」
「りょーや!りょーうーや!おりてきなさい!大変よ、あのね!」
その後の母さんの言葉が、俺の高2の夏を大きく変えたんだ。