・二人は相棒だよ
・しかもそこそこ有名なアイドルなんだ!
・その上でバディポリスの仕事をするテツヤとそのお手伝いをする荒神の話
・わけわかんない話です。本命は続きなんです。ごめんね。
こんな感じ、ロウテツ書くこと、それはしあわせ
「ねえ、先輩は信じる。」
夜半の任務でのことだった。満月が、金の髪に反射している。俺は、その光を見ないようにしながら、目だけ動かす。二人とも、月夜は苦手だ。
「なにをだ。」
「救い。」
緑の瞳は、光を受けなくてもなぜか光り輝いている。救い、なんて意味がわからない。救いを信じるのは、人の性だろうし、信じようが信じまいが、救いは絶望に伏しない限り望むことはないだろう。今置かれている自分らの状況をゆっくり思い起こして、なぜこいつがいきなりそう言い始めたのかようやく気がついた。
数日前から、バディポリス・ユースの一員として、俺、荒神ロウガと黒岳テツヤが正式に相棒となった。元下級生でしかないのに、変わらず尊敬し続け、名前に固執し、俺に呼ばせたこいつは、そこそこにバディファイトも強くなっていた。それになにより、深く詮索はしない。見た目から勘違いしがちだが、こいつは自分から相手のことをしろうとしないのだ。俺もまた、他人を知りたいと思わなければ、知られたくもない。人事担当の七角地王には感謝したいくらいだ。たった数日を共にしただけなのに、心地よささえも生まれている。気難しいはずのソロモン72柱に寵愛をうけるのも合点が行くというものだ。
そもそも、本来ならばお尋ね者のはずの俺が、天敵とも言えようバディポリスと共にいるということが矛盾だ。そして、それこそが今置かれている絶望だ。角王の力を持ってして、ヤミゲドウを封印する。だが、そのために必要な角王は揃っていない。何しろバディポリスは人員不足だ。バディを持つものを、一人でも増やして角王探しに行ってもらわなければ、とても間に合わない。人間が抑えられなくなったヤミゲドウの脅威は、尋常でないのだ。そこで白羽の矢が立ったのが、俺だったというわけだ。
「くるぞ、黒岳テツヤ。」
「……百鬼じゃないのかYO。」
「そのようだな。」
単なるイリーガルモンスターのようだ。テツヤの手を煩わせるわけにはいかない。テツヤ、というか、テツヤのバディである魔王アスモダイを、だ。今、テツヤは俺がそばにいるという条件付きで、アスモダイが入ったデッキを持ち歩いていない。代わりに、といってはなんだが、仮のデッキとして、寂しくないようアーマナイト・アスモダイが入ったデッキをもたせている。今まで一度もルミナイズさせたことはないが。こういう小競り合いは、ファイトに進展する前に、俺がディザスターフォースでカタをつけてきた。
今回も、さっくり任務が終わる。予定だ。相手は、珍しい髑髏武者のイリーガルモンスター。禍津ジンのデッキにも入っている海裂き海豚丸だ。俺は、死狂いを装備した。
「げ、げげ、それはやめ。」
「おとなしく戻れ、話は後で聞いてやる。」
一体のモンスターをカードに返すことなどわけもない。だが、俺は気がつかなかった。迫り来る、本来の敵、百鬼の存在に。
「ッ、竜騎士……?」
テツヤの悲鳴のような声が、背後から聞こえた。カードを握りながら後ろを振り向く。テツヤの目の前には、あろうことか百鬼には珍しい竜騎士のモンスターが立ちふさがっている。手を伸ばしたも、虚しく無情にも竜騎士の刀がテツヤの身を貫こうと襲い掛かる。
「テツヤ、伏せろ!」
「……!」
俺の言葉に、テツヤは反応しすぐさま伏せた。しかし、次々に竜騎士が攻撃を仕掛けてくるので、テツヤもそれに反応しきれないようだ。何刃か体をかすめ、緑の袖に血が滲み始めた。竜騎士コジロウの能力は、貫通とソウルガード。死狂いだけでは心許ない。リクドウ斬魔を装備して、一気にコジロウに斬りかかる。二発喰らわせなければ、コジロウは倒れないのだ。一撃で、コジロウを退けると、その隙にテツヤを抱きかかえる。俺が付いていながら、怪我をさせるとは。相棒として、情けない。だが、悔やむのは後だ。俺は今、目の前のコジロウを倒すために武器を構えた。
あまりにも情けなく、そいつは散っていった。爆雷の力を、テツヤへのダメージに使ったらしい。なぜ俺は先に動かなかったのか、悔やみきれない。百鬼のカードを海豚丸と同じようにしまい込むと、テツヤを抱えて飛び立つ。
「悪い、俺が付いていながら」
「俺が、弱っちいからだYO。」
テツヤは、恥ずかしげに顔を肩に埋めた。そして、もう一度、救いを信じる。と呟いた。
「救いは、作り出せる。」
「……え。」
「なにも誰かに頼るばかりが救いじゃない。」
俺は、優しくテツヤの頬に唇を落とす。テツヤは、呆然としながら俺の瞳を見つめた。
「荒神、先輩。」
「腕、血がひどいな。早く帰るぞ。」
「ね、先輩。」
今度はテツヤが俺の首の裾をつかんだ。そして、荒々しく唇を重ねられた。それは、深いものではなかったが、それでも注意を引くのにはぴったりだ。
「救いになってやるYO!」
「お前がか。」
嘲笑してやると、テツヤに頬をつねられた。
「俺たち、だYO。」
呆気にとられた。人がいいのも、いい加減にしろ。これでは、お前を守る俺の身が、いくつあっても足りないじゃないか。
テツヤを抱きしめる手を強くした。傷ついた腕には当たらないように、だ。しかし、テツヤは腹の辺りに手を回した時に顔を歪めた。嫌な予感がする。
何も言わず人通りの少ない建物の屋上に降り立った。テツヤはなにがなんだか、と小首を傾げて俺の方を見る。何も言わないのは、こいつがひた隠しにしがちだからだ。
「腹と背中だな。」
「え、なんのこと、だ、YO……」
惚けるので無理やり服に手をかけた。テツヤが抵抗する前に服の捲る。
下腹部に一つ、わき腹に二つ、腹から背にかけて浅い切り傷が一つ。黒いインナーで気付かなかったが、血のにじまない程度の傷がいくつもあった。
「さすが、巌流島の戦いで宮本武蔵に挑んだ猛者だな。甘く見ていた。」
「先輩に抱きしめられるまで気付かなかったんだYO、ホントだYO……」
申し訳なさそうなテツヤの顔なんて見たくなかった。非難されるべきは俺だ。
「消毒だ、我慢しろ。」
俺は弱い。白い柔肌に生えた赤い傷跡に舌を這わす。鉄の味、言い得て妙か。
「う、それ……ゃ、」
舌の緩さと感触にテツヤが善がる。
「せん、ぱい。」
もうすでに、血の味はない。それでも、まるで狼が獲物の味を確かめるように、俺はその行為をやめなかった。
黒岳テツヤは、かつて餌だった。強く、なににも折れない、テツヤ信念を知ってなお、そう思い続けてきた。そうだ、餌なのだ。
……悪乗りをしすぎた。テツヤは、気持ち悪さやなんやらで、目に涙を浮かべ、顔は紅潮していた。やってしまった自分の行為を恥じるのはいつだって後の祭りだ。
「テツヤ、」
「……血、出過ぎてクラクラするYO…、帰ろ先輩。」
「あ、ああ。」
腕は止血済みだが、さすがに流血が激しかったようだ。日本刀の切れ味の良さは殺人級だろう。またテツヤを抱き上げようと手を伸ばすと、テツヤはそれを制止して自らのバディスキルをしようした。夜中にこれは目立つ、と止めているのだが今日は言えない。
うっすら空が白んできた。いつのまにか、夜が明けたらしい。やがて昇るだろう太陽を横目に、二人で空に浮かび上がる。今日任務をしっかりしたから明日はオフだろう。テツヤは怪我も考慮して休みをもらえるだろうから、どうせなら何か息抜きをしよう。
「今日は寝ようかなあ、アスモダイと二人で。」
薬飲んで、治療してもらったら多分匂いでばれちゃうな。いや、バディをなめるな、もうばれてるだろう。ええ、じゃあ荒神先輩しこたま怒られちゃうね。……俺はすぐ次の任務に就くからな。相棒契約条件に反してるYO、先輩。まあ、今回は俺も悪いからな。うん、だから先輩も一緒に寝ようYO、医務室行ってからね。
「気づいたのか。」
「あんなに近づいてたら、わかるYO。俺のじゃない血の匂い。」
バナナボートのようなバディスキルにまたがってテツヤはいたずらっぽく笑った。顔色は悪い。酸化して黒ずんだ服が痛々しい。服の洗濯はもう手遅れだろう、きっと母親にとびきり叱られる。このパーカーはテツヤのお気に入りだ。それも合わさってよりいやなようだった。苦々しく袖を見つめる。
「テツヤ、」
「ん?」
「黒も似合いそうだな、」
「俺、黄色好きだから着ないYO。」
ふい、とテツヤは目をそらし東の空を眺めた。
「白なら考えるかも。」
白、と聞き返すと、とびきり良い顔をした。最近、テツヤはようやく笑ってくれるようになった。そう、かつて相棒に向けていたような笑顔だ。
「臥炎財閥が作ったクリスタルチャペルの宣材写真の仕事、子役が二人足りないんだって。」
「…まさか。」
テツヤが差し出した書類には、宣材写真の子役2名募集と書いてあった。どうやら、フレッシュな青い印象が、これからの季節に相応しく、若いカップルへの語りかけにつながるらしい。チャペルというのだから、男女の結婚というイベントのはずなのだが、どうも募集している子役は、男子のようだ。こういうのは、女がもっとも適しているはずなのに。いいや、宣材写真がどんな効果を出すかは知らない。前にキョウヤから見せられた写真では、煌びやかだが、どこか清楚で、よく白に似合う女性がいた。
恐々と顔を上げると、そこにはにんまり顔。愛らしく、そこらの女子よりはだいぶ可愛らしい。この顔には、割と弱いのだ。ごく、と唾を飲んだ。俺の答えは。