「遅いな……」
いつまで経っても戻らないテルとアヤにショウも少し心配になり始める。
「探しに行きますか?」
マユの問いにショウは迷っているようであった。
ここを離れると会える可能性は激減する。
しかし何らかのトラブルに二人が陥っている場合、ここで待っていても会う可能性は0だ。
「……行くか。ここから歩いていく道に印をしていこう。」
「はい。」
二人はそう言って再び、迷路の中へ足を踏み入れた。
「危ない!」
テルがそう叫び、アヤを押して転がる。
そこにマチナの発射した爆弾が飛び、床を転がる。
「アクアボール!」
アヤが転がる爆弾に水を当て、爆発を止める。
「まだだ! 来るぞ!」
テルはアヤの腕を掴み、脇の道に逃げ込む。
するとマチナ12の鉄槌が壁を砕いた。
二人はかろうじて避け、反転する。
そこへ腕を引いたマチナ12が姿を現す。
「今までとレベルが違いすぎねぇか?」
テルはそうぼやきながら銃を抜く。
「もしかして12?」
アヤも魔槍を抜き、臨戦態勢に入った。
「だったら最悪だな!!」
テルがそう呟く合間にマチナ12の腕が地面を叩く。
その攻撃をテルとアヤは跳んで避けるとそれぞれが攻撃に移る。
「ファイアボール。」
炎の塊がマチナ12を狙うが、いとも簡単に弾くと反撃に移る。
「やらせるか!」
テルの放った銃弾がマチナ12の一本の腕に当たり、軌道を逸らす。
アヤの脇をかすめた腕にアヤが槍で攻撃するも硬く弾かれてしまう。
「うっ……」
その隙に二本目の腕がアヤに襲い掛かる。
それをかろうじてしゃがんで避けるとアヤは前転してそこから逃れる。
テルの放ったブレイク弾がマチナ12の左腕に突き刺さる。
それでも大したダメージは無いようでそのまま腕はテルを襲った。
それをかろうじて避けるとテルはもう一度銃弾を放つ。
すると銃弾は途中で4つに別れ、マチナ12の足元に転がる。
アヤが何だろうと思うと同時に4つの弾は爆発をはじめ、足元からマチナ12にダメージを与える。
「ショット弾だ! もう一度喰らえ!」
そう言って再び、テルは4つに別れる銃弾を放った。
今度は地面に落ちるより早く爆発し、腕の隙間を縫って一発がボディにダメージを与えたようだ。
「やった!」
アヤが喜ぶのもむなしく、マチナ12はひるむことなく腕を振り上げて襲い掛かってくる。
アヤは慌てて跳んでよけるも腕がかすり、右腕に激痛が走る。
「いたっ!」
アヤはその力でバランスを崩し、地面を転がった。
しばらく経ち落ち着いたアヤがテルから離れる。
「ごめんね……」
アヤがそう呟く前でテルも少し照れ笑いをする。
「じゃあ行こっか。」
「……うん。」
そう言って二人はもう一度エレベーターを目指して歩き出した。
途中で道は無くなり、再び水の中へと進むこととなった。
「大丈夫か?」
「まぁ大丈夫……」
いつものように強く返ってこないアヤに少し戸惑いながらもテルは水の中に入り、アヤを待つ。
アヤも飛び込み、水面に顔を出す。
テルが意識して見るアヤの顔は水に濡れているのもあり少し綺麗に見えた。
少し見つめてしまったテルは我に返り、慌てて泳ぎだす。
アヤも泳いで進む。
「今は無理でも、ちゃんと返事はするからさ……」
テルはアヤの横でそう呟いた。
「だから少し待っててな。」
そう言うとアヤはゆっくり頷いた。
水路が終わり、再び上がる二人。
「また濡れたな。」
「うん、乾かした意味無い。」
少し元気を取り戻したのかテルに対し皮肉を言い始める。
「どうする? また休む?」
「……ちょっと待って。」
そう言ってアヤは魔槍を取り出し、ルートが着いてるほうをテルに向ける。
「ウィンド……」
風を起こし、テルの服の水分を取り除く。
乾くとまでは行かないまでも重かった服に軽さが取り戻される。
そのまま自分のほうに向け、自分の服を乾かす。
風に吹かれるアヤにテルはまたどきっとしてしまう。
今までテルが考えたことが無かっただけで、アヤは普通に可愛いのだ。
「あんまこっち見ないでよ!」
テルははっとなって後ろを向く。
それを確認するとアヤはスカートを乾かし始めた。
「いいよ。」
そう言ってアヤが魔槍をしまうと二人はまた歩き始めた。
なんだか意識してしまうテル。
自分がそういう目で見てしまうのか、それともアヤ自身がそうなのかは分からないが、いつもと違い、おしとやかで可愛く見える。
しかし二人のそんな時間はまもなく終わりを告げることとなる。
二人が歩く背後からゆっくりと巨大なマチナが忍び寄ってきていたのだ。
そのマチナの大きさは直径3メートルほどで、たくさんの腕が伸び、低空飛行を維持する。
そして、その背中には12と書かれていた。
つまり今回の目標であり最強の敵である。
エレベーターの前に辿り着いたショウとマユ。
「まだ二人はいなかったな。」
「無事でしょうか……」
心配そうな表情をするマユ。
「テルならきっと大丈夫だ。」
ショウの言葉にマユも少し安心していた。
「テル様ならきっとアヤさんも守りますもんね。」
マユはそう言って自分で頷いていた。
「ただ、マチナ12に出くわしてなきゃいいけどな。」
ショウの不安要素はそれであった。
今、二人がマチナ12と出会えば苦戦必死だろうとショウは思っていた。
ただ無言で歩いていくアヤとテル。
しばらくしてアヤが立ち止まった。
「……テルは……」
アヤがそう呟いたのを聞き、テルも立ち止まる。
「テルはどうなの?」
「どうって……その……」
テルはそう呟くと一度深呼吸をした。
「ごめん、突然すぎて何も分かんない……っていうか今まで生きるのに必死でそんなことも考えてなかった……本当にごめん。」
テルの返答にアヤはただ逆を見つめ聞いている。
「だからアヤを好きとか……今すぐには答えられない…」
テルがそう答え終えるとアヤはテルに抱きついてきた。
アヤ 「ごめんね……」
涙ながらにそれだけ呟き、しばらくテルの胸で泣くアヤ。
アヤの中では決して言うべきでない感情と位置づけられていたこの気持ちはテルに優しくされて助けられて、テルと二人っきりという状況によって増大し、ついに溢れてしまった。
しかしアヤ自身でもテルがそんな事を考える間もないほど今に必死であるということは理解していた。
両親の真実。
それだけでなく二つの世界を巻き込む陰謀の中心に入っていたテルの頭の中は楽しそうにしていてもどこか引っかかりを残しているのだろう。
それだけのことを背負いながらも寂しそうな表情も苦しそうな表情も見せないテルにショウもアヤも助けられていた。
アヤが過去を取り戻し、心が揺れたときもテルが支えになっていた。
それを言葉にださないもののアヤはずっと感じていたのだ。
そんなテルに対し、恋愛感情を今出すのはテルにとっても答えの出せないものであり、今の関係を崩すだけである。
そんなことを分かっていながらも抑えることのできなかった自分に対し、アヤは涙しているのだろう。
加えて、テルをわずかながらでも苦しめてしまったことにも。
テルもアヤの涙の意味のすべてを理解できずともなんとなく気持ちを察し、ただアヤをそっと抱きしめていた。
「何で笑うの!?」
アヤはイライラした表情でテルの顔をつつく。
「いやー、このタイミングで不細工とか言うかーって思ったから。」
テルは笑いを堪えながらそう答えた。
「なっ……だって不細工じゃん!」
「ショウが言ってた意味がなんとなく分かったよ。」
テルは目を開けてそう呟いた。
「な……何が!?」
「アヤが正直じゃないって。」
そうテルが言ったとたんテルの顔にアヤの鉄槌が落ちる。
「訳分かんない!!!」
テルは顔を押さえているも笑いをこぼしていた。
「そういうとこが……」
そう言ってテルは起き上がる。
「なんかむかつく……」
アヤはテルを睨むも殴ることなくそう呟いた。
テルは微笑むと立ち上がり、アヤに手を差し出す。
「ほら、元気になったろ? 行くぞ。」
テルに言われるがまま、アヤはテルの手を握り、ひっぱられるがまま立ち上がる。
しかし、勢い余ってアヤはテルの胸に飛び込んでしまった。
「おっと、悪ぃ……」
テルがそう言って離れようとするとアヤがテルの腕を握った。
「いいの……このままでいて……」
突然のアヤの行動にびっくりして固まるテル。
「……好き……」
しばらくしてアヤが小さく呟く。
「えっ?」
テルがビックリしてアヤの方を見るもアヤは何も言わずにテルの肩に顔をうずめる。
「今……なんて?」
テルがそう聞くとアヤはテルを思いっきり突き飛ばした。
「うえっ?」
テルはそのままの勢いで水の中へと落ちる。
しばらくして水面に顔を出すテル。
「おい! 何すんだよ!」
テルがそう叫ぶもアヤは何も答えずにテルのほうを見つめていた。
「……あんたが好きなのよ!」
涙を少し浮かべながら叫ぶアヤ。
「馬鹿で間抜けで……でもまっすぐでかっこよくて……そんなあんたが好きなの!」
アヤがそう叫ぶとテルは驚いた表情を見せアヤを見つめる。
「俺を……好き……?」
テルは突然のアヤの告白に思考が追いつかない。
「最初にあんたに会った時は、場違いでのろまな奴がいるなって思った。」
とりあえず水から上がりアヤの方へ歩くテル。
「でも、あんたに地震の時に助けられて、いろんな言葉に助けられて……」
アヤはテルの方を見ることなく寂しそうな表情をしてそう呟いていた。
「アヤ……」
テルもどうしていいか分からない表情でそう呟く。
「ごめん……行こ……」
アヤはそうとだけ呟いて歩き出した。
「お、おい……」
テルも複雑な表情をしながら後を追って歩き始めた。