ぽーん、と軽い音が響いた。
それが時計の音だと気付くのに、少し時間を要した。
すっかり冷えた手を抱え直し、気休めに息を吹きかけて擦り合わせる。
少し前に自販機で買った紅茶は、すっかり冷たくなってしまっている。
ふと、先ほど音をたてた時計を探して視線を彷徨わせていると、その端で揺れるなにか。
目を凝らすと、愛しい君の姿。
さっきのボクのように、何かを探すように視界を巡らせて、焦れたように足踏みする君を、もっと見ていたいと思う。
いつもはすぐにボクを見つけてくれる君の、少し時間のかかる今は、この闇のせいか、それとも。
「……黒子!!」
ふざけた調子じゃなくって、真面目な時だけボクを黒子と呼ぶ彼。
ふと頬を緩めると、高尾君の視線と絡んだ。
「こんばんは」
「じゃない!! 今何時だと思ってんだよ」
10時ですね」
10時ですね、じゃないってば! こんな夜遅くに、寒い中こんなとこで待ってるとか、何してんだよ!! 危ないって、分かるだろ……」
ああ、こんな冷たくなってんじゃん……。
小さな呟きと共に取られたボクの手が、彼の熱に侵食される。
その熱が、暖かさよりも先に、ボクにわずかな痛みをもたらす。
「すみません」
「……謝ってほしいわけじゃないって。ただ。心配で、テッちゃんに何かあったらと思うと怖かった」
「それもですが、今日一日のことを……」
近づいた距離に、彼の吐息がボクの前髪を揺らす。
本当に、ボクのことを大切にしてくれる彼。始まりのその前に、与えられるそれらを疑ったボクは、今でもまだ少し臆病なままだ。
寒さではなく、身体の底から湧いた感情が、ボクの指をカタカタと揺らす。
それを、寒さのせいと勘違いした彼の暖かい息が、またボクの手を包んだ。
「すみません、あの……知らなくて」
小さく溢した懺悔を、拾ってほしい。でも、失望しないでほしい。
屈んだ高尾君の視線が、いつもより近い所にある。手を伸ばして、柔らかな黒髪に触れる。
「誕生日、おめでとうございます」
やっと、言えた。
その言葉を告げた刹那の、彼の顔を、ボクは、