「では、今日はここまで!!」
「ありがとざっましたー!」
ぜいぜいと肩で息をするのがやっとの部員たちの挨拶は、少し滑舌が悪い。
シャツの袖を伸ばして額の汗を拭うと、またじっとりと重さを増した。
荒い息を繰り返す自分の隣で、自分の相棒は涼しい顔をして小さな息を吐くばかりだ。
もう随分、日常になった光景。
大きく空気を吸い込んで、吐き出す。灰の中が空になるくらい、頭の中も空白に塗りつぶして。
そこに小さく浮かぶ、水色に手を伸ばしてみたい。
閉じた目をゆるりと開くと、そこはいつもの体育館でしかないと、分かっているのに。
「高尾」
凛と重く響く緑間の声に振り仰ぐ。この、話すときに見上げざるを得ない身長差が、憎たらしい。
なに、とわざと軽薄に返すと、真ちゃんの眉間の皺が一本増える。
それが面白くてぎゃははと笑った。
「真ちゃんさ、まだ高一なのにそんな眉間に皺寄せてどうすんの?つか、消えねえかもよ」
「大きなお世話なのだよ。それより、話を逸らすな」
左手で眼鏡を押し上げる仕草で、いらだちが伝わる。
もう、些細な仕草で真ちゃんの気持ちを読み解くのもお手の物になった。
それくらい、同じ時間を過ごしてきたし、誰よりもこいつを見てきたという自負もある。
でも、同じくらい見て、理解したいと願っても、彼の方は、ちっとも。
空中分解し始めた集中力をかき集めるように、緑間の盛大なため息があって、続いて
「いい加減にするのだよ。朝から腑抜けた顔をして、集中力もない。部活後半の動きの鈍さなど、見るに耐えん」
「ひっでーの」
「事実だ。誕生日だからといって浮かれるな、バカめ」
心臓の奥が小さく疼く。
とっさに、両手を真ちゃんへと伸ばして、彼の大事な眼鏡のレンズに思い切り触る。
オレの指紋でべたべたに汚され視界を鈍くされた真ちゃんが吠えるけれど、そんなものは無視だ。
うるさい彼に背を向け、走り出す。もうすぐ近くだった体育館の扉を潜り抜けると、冬の風がオレを削っていくけれど、構いやしない。
ぎゅっと閉じた視界の向こう、暗闇を照らす淡い光が、ちらりと見えて、消えていく。
「……逆だっつ―の」
吐いた息は、オレの色も、彼の色も描かずに、闇に溶けた。