3.久々食満
俺の目前には、豆腐。そして隣に座っているのは睫毛が長い美少年。彼はとてもにこやかに笑っている。…しかし、何故豆腐?

「食満先輩、私は久々知兵助といいます。」
「あ、あぁ。あの、なんで」
「その豆腐は私が作りました。」
「そ、そうか。あー、なんで豆」
「食べて下さい。」
「あ、わ、分かった。…あの、なんで豆腐」
「食べさせてあげましょうか。」
「い、いや、いい。」
「遠慮せずに。」

目の前には恐ろしく笑顔の美少年があーんと豆腐を口に運んでくる。仕方ないので、口に入れると今まで食べたことがない程美味しい。

「…美味しい。」
「っ良かったです!!」

素直な感想を述べると、これ以上ないほど満面の笑みを向けてくる。多分豆腐が好きなんだろう。なんだか和んで頬が緩む。また豆腐の乗った箸をこちらに向けてくる。箸の持ち方が綺麗だなぁと思いながら口を開けると、口に入る直前に箸から豆腐のかけらが…若干不自然な場所に落ちた。あ、と思ったときには久々知、くんが俺の鎖骨についた豆腐を舐め取っていた。

「っ!?」
「先輩…」

目を伏せ、舌を出して俺の身体についた豆腐を執拗に舐めている。さすがにおかしいと思い、俺にひっついている久々知くんをバリッと引き離した。

「ななななな何やってるんだお前は!!」
「?」
「な、急に、なんだ、ふ、普通に取ってくれたら良いだろう!?な、なんで舐めるんだっ!!」
「…いつものことじゃないですか。」
「は?」

久々知くんは結構強く押してしまったためか尻餅をついてしまっていた。それでも満面の笑みは崩れず、俺の横に座りなおって久々知くんは言った。

「貴方がいつもやらせてたんですよ、留三郎先輩。」
「えっ」
「私が豆腐好きなのをいいことに、豆腐を使って誘惑したのは貴方です。」
「お、俺が…?」
「そうです。」

あまりの事実に開いた口が塞がらない。俺が、そんなふしだらなことをこの少年に課していたと。なんて非道な。

「すまない、久々知くん。」
「いつも通り兵助と呼んで下さい。」
「…兵助。もうこんなことはしなくていい。」
「え?」
「俺が強制的にさせていたのだろう、だったらもうこんなことをしなくても」
「嫌ですっ!!」

急に大声を出した兵助に驚愕する。俺に縋り付きながら半泣きで訴えてくる。

「わ、私はもう食満先輩がいないと、生きていけないんです、私、私はっ」
「へ、兵助っ」
「私は貴方とこのままで居たいです!!」

その様子があまりにも必死で、とても申し訳なかった。恋人のいる身でありながら、こんな綺麗な少年にこんなことをさせるなんて、前の俺はなんて卑劣な。しかし、兵助が望むなら、罪滅ぼしとは言わないが、甘んじて受け入れなければ。

「すまない、兵助。お前が望むのなら、俺は何もいわない。」
「それじゃあ…」
「あぁ、いつも通り接してくれ。」
「はい!!」

そのあと豆腐が無くなるまで身体に豆腐を塗られ舐められ続けたのだった。


4.鉢食満
目が覚めたら、俺が居た。思わず起き上がると必然的に俺を覗き込んでいた俺の顎に俺の頭がぶつかる。…説明が難しい。とりあえず顎を抑えて痛がっている俺(仮)に、大丈夫かと声をかけた。

「大丈夫です。」

声まで俺だった。

「…驚いたな。俺は双子だったのか?」
「いいえ、私は5年ろ組鉢屋三郎。変装名人と言われております。普段は級友に変装しておりますが、貴方の一大事と聞き、少しでも元気づけたいと思いましてこのような姿で参上いたしました。」
「変装、名人。」


忍術学園とは凄いところだな。そう呟くと、貴方もその一員だったんですよと苦笑された。それに俺も苦笑する。こんな凄い奴と同じように自分が忍をやってたのかと、いまだ信じられない気持ちでいる。

「そろそろ、普段の顔に戻してもいいぞ。そっちの方が落ち着くだろう。」
「ありがとうございます。」

一瞬で顔が変わった。その様子に目を丸くしてると、吹き出された。少し顔が赤くなる。そんなに間抜けな顔をしていたのだろうか。恥ずかしい。

「鉢屋、さん。」
「三郎とお呼び下さい。貴方にはいつもそう呼ばれていたのです。なんだか落ち着かない。」
「あぁ、分かった。では三郎。その、以前の俺達の関係はどのようなものだった?できれば教えて欲しいのだが。」
「えぇ、構いませんよ。私は」

三郎は俺の手を掬い、手の甲に口づけながら言った。

「貴方の下僕です。留三郎さん。」

…?

「すまない、もう一度言ってくれないか。」
「私は貴方の下僕。」
「え?」

目の前でにっこりと笑う彼は優しげだ。しかしなんとなく悪そうな顔をしているのは気のせいだろうか。

「貴方に呼び出され、色々な顔に変装させられては、貴方を抱き、あんなプレイやこんなプレイをさせられました。」
「…まじか。」
「まじです。」

以前の俺は何をやってるんだ。恋人がいるのに、美少年の童貞を奪ったり、変装名人という凄い奴に行為を強要したり…。恥ずかしい。

「す、すまん。もう金輪際そのようなことは、」
「留三郎さん。」
「え?」

三郎はふわりと笑って俺を抱きしめた。困惑していると、俺を愛しそうに見下ろしながら言った。

「私は貴方にそうされたいと思っています。」
「え。」
「私は貴方の下僕。それは貴方が強要したことではなく、私がやりたいからやったまでです。」
「三郎、」
「私、2番目でいいんです。これからもこのままで、いいですか?」

少し寂しそうに顔を歪める彼に心を痛める。とても申し訳なくて、俺は小さく顔を縦に降って肯定の意を示した。






嘘八百な5年。全部嘘。そんな5年が好き。まともな奴がいない。三郎が最初まともに見えたら私の勝ち。


以前と今の5年の呼び方と食満の呼び方を比較。

以前
竹谷⇔食満先輩
久々知⇔食満先輩
鉢屋⇔食満先輩
不破⇔食満先輩
尾浜⇔食満先輩、留三郎先輩


ハチ・八左ヱ門⇔留三郎先輩
兵助⇔留三郎先輩・食満先輩
三郎⇔留三郎さん
雷蔵君⇔留三郎先輩
勘右衛門⇔留三郎さん・留三郎


勘ちゃんは自由人。