日本を代表するミステリー作家の森村誠一氏が1976年に発表し、翌77年に岡田茉莉子・松田優作の主演で映画化され大ヒットした不朽の名作『人間の証明』が、藤原竜也、鈴木京香の共演で新たにドラマ化され、今春にテレビ朝日系で放送される。

昭和49年、東京。ホテルの最上階に向かうエレベーターの中で、一人のみすぼらしい身なりの黒人青年が息絶える。胸には深々と突き刺さるナイフ。頬には一筋の涙が伝っていた。現場に駆け付けた麹町東署の棟居弘一良(藤原竜也)は、本庁捜査一課の横渡伸介(緒形直人)とともに捜査を開始。青年が向かおうとしていた最上階で聞き込みを始める。その日、最上階では高名な美容家の八杉恭子(鈴木京香)による盛大なレセプションパーティーが開かれていた。大勢のマスコミや招待客がひしめき、大物議員の夫(中原丈雄)と一人息子(堀井新太)とともにスポットライトを浴びる恭子は、理想の妻、理想の母として日本中の憧れを集めていた。殺された青年の名前はパスポートからジョニー・ヘイワードと判明する。しかし、恭子のパーティー客に該当する人物はいなかった。その後の捜査で、ジョニーはニューヨークのスラム街育ちであること、片言ながら日本語が話せたこと、そして死の間際「ストウハ」という謎の言葉を残していたことが分かるが…。

本作は、孤高の刑事・棟居という名キャラクターを生み出し、最も有名な森村氏の代表作として、松本清張の[砂の器;1961年]と双璧をなす“昭和を代表する名作ミステリー”。いまから41年前に発表された同名推理小説。現在までに単行本・文庫本累計は770万冊以上を売り上げ、一躍ベストセラーに。また、原作が発売された翌年の1977年には、岡田茉莉子×故・松田優作主演で映画化され、劇中での「母さん、僕のあの帽子、どうしたでしょうね?」という西條八十の詩のインパクトとともに、40年が経ったいまも人々の記憶に鮮烈に残ってる。これまで、設定などを変えドラマ化が幾度も重ねられてきたが、今回は原作に忠実に「終戦直後から1970年代の昭和」を背景として、普遍的な訴求力に富むストーリーの映像化に挑む。

「母さん、僕のあの帽子、どうしたでせうね?」森村氏が西條八十(さいじょう・やそ)のこの詩にインスパイアされ執筆を始めたと述べている通り、原作に通底している大きな核のひとつは「母性」であり、その「母性」への郷愁だ。母親に捨てられた過去を持ち“母性”に対する不信を抱く刑事・棟居弘一良を藤原竜也、家庭や地位、名声を守るために“母性”を捨てた美容家・八杉恭子を鈴木京香が演じる。

竜也君は「大変失礼な話ですが、僕は『人間の証明』の映画を観たことがなかったんです。その話を監督にしたら、「俺はこの先、一切観ずにこの作品を撮る。だから藤原も観るんじゃない」と言われました」と笑顔で明かし、「役者を何年やっていても巡り合えないだろうと感じたほど本当に欠点のない台本でしたので、それに忠実に、そして監督と共演者の皆さんと力を合わせていけば、また違う『人間の証明』という作品ができるのではないかと思っています」と語り、鈴木サンは「私が小学生の時に『人間の証明』の映画が大ヒットしました。映画では岡田茉莉子さんのお母さんぶりが強烈で、印象に残っています。今回はその役をやらせてもらうということでとても感慨深いですし、すごく楽しみにしております」と語っている。

殺人犯を追う刑事を描く“本格捜査ドラマ”であり、激動の戦後を必死に生き抜いた“一人の女性の数奇な一代記”であり、家族の絆と崩壊を描く“ホームドラマ”であり、“国境を越えた親子愛の物語”であることが原作の魅力となっている。

竜也君は「本心を言えば、非常に面倒くさい役です(笑)。僕には、母性のことはよく分からない。ただ、『ジョニーの気持ちが僕にはよくわかる』というせりふがあります。棟居の中で母親が幼い頃に僕と父親を置いて去って行った、ずっとそれを抱えながら生きてきた孤独というものは理解して演じていかなければと思っています。(松田さんの長男の)松田龍平に“なんでオレじゃないんだ!?”と思わせるような作品にしたい」と明かした。

鈴木サンは「恭子はものすごく興味深いキャラクターで、悪役ではあるんですが、女性としてどうしてもシンパシーを感じてしまう。きっと女優だったら誰もがやりたい役だと思います」と笑顔を見せる。

竜也君と鈴木サンの共演は、大河ドラマ[新選組!;'04年、NHK総合ほか]以来の13年ぶりで、竜也君は「京香さんとまた共演できることは非常に光栄です。八杉恭子という役は難しい役だとは思いますが、その京香さんを追い詰め、すべてを暴いていく刑事の役を緒形(直人)さんたちとやっていく撮影は楽しく、最後までしっかりとした芝居をしていけたら」と久しぶりの共演を喜んだ。

一方の鈴木サンは、「この13年で藤原君のどういうところが変わったのか、お相撲のがっぷり四つのように、しっかり向き合ってお芝居したい。久しぶりの共演で私の方が『ちゃんとやっていない』と万が一でも思われないよう、とっても身が引き締まるような思いです(笑)」と意欲を見せた。

同局の船津浩一プロデューサーは「2年も前から、骨太の人間ドラマとして“人間の証明”をやりたいと考えていた」と説明。配役について「藤原さんは演技派で、内に秘めたものが役柄にぴったり。京香さんは華やかさがあり、優しさを持ちながら強く生きる役柄にぴったり」と話した。

竜也君は「今、またこの作品が映像化されるに当たって思うことは、過去の優れた戯曲を演じるときに感じることと同じで、時代とか社会情勢というのは、先に進むんじゃなくて結局同じ場所を回っているということ。この作品にもきっと改めてハマってしまう時代があって、それが今なのではないかと思います」と熱弁した。

鈴木サンは「ドラマ化の背景には、今の時代がまた弱いものが弱いままはい上がれないような、厳しい世の中になってきていることがあるのかなと感じます。この作品をどう見てもらいたいという思いよりもまずは『人間の証明』という小説があって、ドラマとしてもリメークされている作品があるということを、今回の作品を通して知っていただけたらいいなと思います」と期待を込めた。

また、棟居と共に行動するベテラン刑事に緒形直人、昔の恭子を知る老女役に草笛光子、捜査の全権を握る捜査一課のキャップ役に宅麻伸ら豪華キャストが出演。脚本は[ナオミとカナコ][Chef〜三ツ星の給食〜](ともに2016・フジテレビ系)などの浜田秀哉が手掛けた。