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『水冴える春』

やすらかな響きをたててゆくせせらぎも


ちりぢりに飛沫を散らしてゆく奔流も


やがて一つになり水底からたちのぼる


すみれ色の空に浮かぶ鏡になる。


少女の時代は小川のように優しく


若き日の情熱は滝のように流れた





そして、いま向かうそれは


静かに平和な小波をたてて光かがやく。






...............



蒼く澄んだ水が

凍えながら光ながら

春を芽吹かせていく


____春よ。





上流部に張っていた氷が

春の訪れとともに融け

山々が春霞にゆれる頃

山の根雪も盛んに融けて

川へ川へと流れ込むので

やはり水は冴え冴えと冷たくなる。




冬のあいだ鉛色を帯びて

とろりと重い感じがしてた水面は

春とともに透明感と青さを増し

軽やかに流れ出す。



「なにが釣れるんですかあ」


橋の上から身をのりだし、釣り人に声をかけると



「あゝ?ヒカリー」


とその答えが返ってくる。



ヒカリというのは、サクラマスの子どものことだ。

秋に川底の砂利の中に産み落とされた卵は

川に育まれて稚魚になり、春には泳ぎだす。

稚魚たちは川のあちこちに散り


翌年の春までに15cmほどになる。



そうしてパーマークと呼ばれる灰色の斑紋を持つものが「ヤマメ」となり川に残り

斑紋が薄れ、銀色に変化したものは海に降りて「サクラマス」となるのだ。




昔風の竹竿と年季のはいった上着に切符のついた帽子は、

どこか亡くなった祖父を思わせる。


そんな風貌の釣り師たちが

川のあちこちに竿を延べるようになるのは、

水がいっそう光のきらめきを増す頃のことだ。



なるほど、老人たちが釣っていたのは、

海へ降りる途中のサクラマスの1年生だったのか。



きっとこうして遙か昔から

ヒカリは春の小川を下ってきたのだろう




『たくさん釣れますかあー』


との問いかけに無言で笑った老人の時間は、ゆったりと滔々と流れているように見えた。




ほんとうに、光を釣り上げようとしているようにも見えた。



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