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白の森〜豆マメ事件〜そのB

話題:自作小説


ある日のこと。

町まで下りてきた豆族がいた。
彼女は、可愛らしい花豆の色彩(個人差はある)。
頭の巣には卵が二つ。
まだまだ羽化は先のようだった。

冬越しをするために、暖かな毛布と保存の効く食材を求めに来たのだとか。

生憎、豆族の言葉は人族が使用している言語と異なるために専門家の通訳が必要なのだ。
幸い町の司祭が研究家であったため、豆族の言葉もそこそこは理解できた。

雑貨屋で毛布を、乾物屋で保存食を求めていたところその頃良く居酒屋で見掛けた青年と店の中でぶつかってしまった。

背の高い青年の視界に、膝ほどの丈しかない花豆の彼女が入らなかったようだ。

転びはしないまでも、よろけた彼女は食品棚に填まってしまう。
自力では抜け出せないほどすっぽりと。
近くにいた者たちも、これには驚いた。
押しても引いても彼女は出てこられなくなってしまったのだ。

結局、棚の中身を全て退けて解体することになったのだが周囲の野次馬たちは昔話の、「大きな蕪」を彷彿とさせたと口々に言っていた。

余人に見世物にされた花豆の彼女は、恥ずかしがって暫く姿を見せず。
次に町に下りてきたのは、次の年の春だった。
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白の森〜豆マメ事件〜 そのA

話題:自作小説

豆族の生態について、記述出来ることはかなり少ない。
まず挙げるとすれば彼らの見た目だろう。

人族に比べるとかなり小さく、人間の膝下位までしか背丈は伸びない。
そして大人になるにつれ、頭頂部に鳥の巣をこさえるのだ。

これは、町の学者でもある司祭の研究成果だがその頭頂部に作った巣で、鳥を育てるのだとか。
たまに森の中で彼らを見掛けると、確かに巣のなかで小さな雛がピヨピヨ鳴きながら餌をねだる姿があった。
中には立派な巣はあれど、その主がおらず完全なるファッションアイテムになっているものもいるが…。だが、何の雛であるかは目下研究中らしい。

彼らの見た目は世界中の豆の種類に良く似かよっているのでその名がついたのだとか。

ちまちま動く、小さな球体状の生物はまさしくその名がつけられたに相応しい外見と行動パターンだ。
思わず微笑ましくなってしまうほどに。

彼らは冬越えの準備のために秋になると時折町まで下りてくる。
それ以外は森の中で生活し、ほぼほぼ出てくることはない。

但し、この行動はこの町に限ったことらしく他の地域ではお目にかかることはないのだとか。

子供や小さいものが好きな女性(一部男性)は、この時期を楽しみにしている。子供は、彼らが持ってくる物々交換のための普段手には要らない珍しいお菓子だったり、オモチャたったり。
女性はその愛くるしい見た目に癒されつつ、頭頂部にある巣の主から綺麗な羽根を譲って貰ったり。

様々な思惑はあれど、比較的友好な関係を築いている。

森に生かされているのは互いに同じであるからして、程よい距離の友人は大切なのだ。
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白の森〜豆マメ事件〜

話題:自作小説

豆の種類をあげるなら、恐らく紙面一杯が埋まってしまうかもしれない。
農家ではないからそう詳しくはないが少なくとも食卓に良く上がる豆くらいは知っている。
大豆に小豆に花豆、豌豆豆、レンズ豆、雛豆etc...。
実に多彩だ。
それらにそっくりな彼ら豆族の見た目は、正直目が痛いし細々動かれると目が付いていかない。
頭に鳥の巣をのせて、今日も彼らはえっちらおっちら森を歩いて回るのだ。
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積み木の町


話題:自作小説

穏やかな時間の流れる田舎道を抜けると、町を一望できる丘にたどり着く。
小さな畑に囲まれた教会は調度青空教室の真っ只中で、司祭の穏やかな表情が遠くからでも認められた。
基本的な読み書きを幼子たちに無償で教える彼は、この町の長も勤めていて。
忙しい時間を縫って子供たちとの時間をこさえている。
その生徒たちの中に、見慣れた赤い帽子があったのは多分気のせい。

今日は晴天。
暑くなりきる前に青空教室はお開きだろう。
後ろから師を探す、双子の声が聞こえたような気がしたがそれも気のせいと言うことにした。
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大橋を越えれば


話題:自作小説

機械仕掛けの大橋を越えると、他国の領域。
不死の皇帝が統べると言うそこは、想像するのも難しい。
一つ言えることは今の生活を続けるならば越える必要が無いと言う事か。
あいつは昔そこを渡った事が有るらしく、あちらはどうだったと聞いてもはぐらかされた。
小さな山間の町で育ったまま、大人になってもこの田舎町に移り住んで国を出るなど考えたこともなかった。
外の国を見て回るほどの行動力も経済力もない自分。

まあ、見た目の割にあちこちを放浪して回った事があるあいつが最大の謎なのだが。
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