話題:自作小説
ある日のこと。
町まで下りてきた豆族がいた。
彼女は、可愛らしい花豆の色彩(個人差はある)。
頭の巣には卵が二つ。
まだまだ羽化は先のようだった。
冬越しをするために、暖かな毛布と保存の効く食材を求めに来たのだとか。
生憎、豆族の言葉は人族が使用している言語と異なるために専門家の通訳が必要なのだ。
幸い町の司祭が研究家であったため、豆族の言葉もそこそこは理解できた。
雑貨屋で毛布を、乾物屋で保存食を求めていたところその頃良く居酒屋で見掛けた青年と店の中でぶつかってしまった。
背の高い青年の視界に、膝ほどの丈しかない花豆の彼女が入らなかったようだ。
転びはしないまでも、よろけた彼女は食品棚に填まってしまう。
自力では抜け出せないほどすっぽりと。
近くにいた者たちも、これには驚いた。
押しても引いても彼女は出てこられなくなってしまったのだ。
結局、棚の中身を全て退けて解体することになったのだが周囲の野次馬たちは昔話の、「大きな蕪」を彷彿とさせたと口々に言っていた。
余人に見世物にされた花豆の彼女は、恥ずかしがって暫く姿を見せず。
次に町に下りてきたのは、次の年の春だった。