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小咄 散髪

表で相方に散髪を頼んだ。
生憎髪結いにいく暇も金もないので、髭を整える時に使っている剃刀を預けて整えて貰うことにしたのだ。

恥ずかしながら自分も。

これが終わったら交代して、相方の方の髪も整えてやることに。
お互い持ちつ持たれつ。

どちらも安月給の貧乏人のため節約を余儀なくされるわけだ。
致し方の無いことだ。

小咄 上司

今の仕事に就いてから、特に面倒を見て貰っている上司は二人いる。

一言で表せば、
一人は豪快な人。
もう一人は細やかな人。
そんな感じの人達である。

一見正反対であるものの、二人の仲は良好で変にギクシャクしたりない。
聞けば同期で、配属部署も元々は同じだったのだとか。

新人として配属された時は、二人に振り回されたものだ。

今の自分は部下や後輩が出来、逆に彼らを振り回しているかも知れない。

小咄 縁側にて

愛玩動物は挙げるとすれば、妻の生きていた頃に懐いていた近所の野良猫だろうか。

茶と灰と白の毛色の斑なそいつはふてぶてしくも夕飯時に限って現れた。
出汁をひいたばかりの煮干しにありつこうという魂胆。

あまりいい気はしなかったが、子の望めない妻は我が子のように可愛がっていた。

しかしそいつも弁えたもので、決して夕飯時以外にうちへは近寄らなかった。
野良としての誇りなのか、単純に日頃の歩く道順の都合だったのかは今となっては知れないが。

けれどもある日、昼日中にやつが現れたことがあった。

彼女の初七日の日だった。

それまで姿を見せなかった癖に。

一人彼女の位牌に向かう自分にそっと寄り添った後、ふらりと何処かに消えていったあいつ。

その後二度と会うことはなかったし、自分も住まいを変えてしまった。

膝の上に丸くなる白黒の毛玉たちを眺めながら、あの野良は今も生きているのだろうかと、ふと考えていた。

小咄 老夫婦

記憶の中の祖母は、庶民の出で若い頃から苦労を重ねたせいか彼女よりも年上だった祖父よりも老けて見えた。

それでも時折少女に戻ったように、茶目っ気を見せたりもして何だかつかみ所のない人でもあった。

忙しい両親に代わり自分達の面倒をみてくれた祖父母は、厳しくそれでいて目一杯自分達のことを甘やかしてもくれたものだ。

今の自分があるのも、二人のお陰だ。

夫婦仲も良かった彼らに憧れて、幼馴染みたちに茶化されたのも今となっては良い思い出である。

小咄 簡易昼食

いわゆる、結びだの握りだのと呼ばれる簡易携帯食だが自分が好きな具は梅干しではない。

干した梅を塩漬けにしたそれは、確かに殺菌作用だの肉体疲労回復効果だのに優れているかも知れない。
しかし、それを口にするのであれば梅肉状にして和え物にするか或いは鱧だのに添えるかして食らいたい。

お結びの具は、新巻鮭並みに塩っ辛い鮭が好ましい。
それと漬け物が一組になっていれば文句なしだ。

ボリボリと漬け物を口内に放り込みながら、とりとめもなく胸の内に愚痴を吐いた。

残念ながら、今日は今年一番かと思うほどに暑い。
新巻鮭は保存食であり、まして手に入り辛いのですげなく却下。
漬けてある梅干しの中でも塩分の強い壺の物が採用された訳である。

口を窄めながら白飯と共に飲み下す。
別に嫌いではない。
単に食べ方についての好みの問題なだけで。

隣で同じものを食べている同居人も、梅干し自体を食べ慣れていないせいか四苦八苦していた。

作って貰ったからには食べきる。

それが信条ではあるが、いつもより食べる速度が落ちている。

まあ、今日は炎天下の野良仕事になってしまったのだ。
急いて熱中症になどなるまいと、ゆるりゆるりと作業を進めるべきなのだろう。

泥の付いた股引きを見つめて、竹筒の水を飲み干した。
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