2018-12-26 21:06
ふとネタを思い立ってしまったので。
小話といえど、初めて書いたので細目で読んでください。笑
追記からどうぞ。
小狐丸は縁側を歩いていてふと足を止めた。庭にこの本丸の主の姿を認めたからだ。
自分が主と慕っている彼女は大人しい見目とは裏腹に、存外、外に出ることを好む。書類仕事に励む主に休憩を勧めようと、茶と茶菓子を持って行くと執務室はもぬけの殻。当人は気分転換のために庭に出ていた、などということも少なくないのだ。
だから、彼女が庭に出ていること自体は珍しいことではない。珍しいことはないのだが、天気と庭の状態がいささか気にかかる。
年の瀬も迫ったこの時期、本丸も本格的に雪の季節を迎えていた。ここ数日降り続いた雪が膝下まで積もり、本丸の庭はすっかり白く染まっているのだ。
見れば、雪がチラつく中、この本丸の主は上着も羽織らず薄香色の着物姿で外に出ていた。
「主様、そのような姿ではお風邪を召されますよ」
「ッ小狐丸…」
小狐丸の気配に気付かなかったのか、彼女は驚いた、それでいてイタズラが見つかったような、バツの悪いような、そんな顔で振り向いた。
そして、観念したように縁側にいる小狐丸に近付いて来た。
近付いて来た彼女を自分が肩に掛けていた櫨染色の羽織で包んでやった。
「どうしました。このような天気の日に外にお出になられて。主様が外がお好きなのは存じておりますが…」
「…気分転換にね、これを作ってたの」
そう言って差し出された手の上には愛らしいうさぎが1羽。
「雪うさぎ、ですか」
「そう、積もってる雪を見たら作りたくなってしまって…仕事もキリのいいところだったからつい…。かわいいでしょう?」
そう言って小首を傾げ、はにかんだ表情を向ける彼女に小狐丸は胸がきゅうと鳴った気がした。
「(なんじゃこの愛らしい生き物は…ッ)」
「小狐丸?」
「大変、愛らしゅうございますな。」
内心思ったことは露も顔を出さず、雪うさぎの出来に満足そうにしている彼女にそう返してやる。それにしても、雪空の下にいた彼女の身体が気掛かりだ。先程羽織を掛けてやった肩が小狐丸が思っていたよりも冷えていたのだ。
「主様、お身体が冷えております。一度部屋へ。雪うさぎはまた後で見に参りましょう。」
執務室は火鉢を置いているので暖かい。小狐丸は彼女を火鉢の前に座らせた。そして、自分は小さな体を包み込むように後ろに腰を下ろし、赤くなってしまった彼女の手を火鉢に当てながら擦っていた。
「小狐丸の手はあったかいねぇ」
「主様の手が冷えすぎているのです。まるで氷のようではありませぬか」
この本丸の主の手は常に暖かい。女人には冷え症の者も多いと聞くが、彼女はそうではないらしい。だから、このように冷えた手というのは大変珍しかった。少しずつ温もりが戻ってきた彼女の手の熱をさらに戻すべく擦っていると、冷えた手の主が「ふふ」と笑い声を漏らした。
「主様?」
「あのね、嬉しいなぁって」
そう言って口を開いた彼女の話を聞いていると、なんでも、審神者仲間でもある冷え症の友人の「恋仲の刀剣男士が、自分の冷たい手を擦って温めてくれるのだ」という話を聞いて少々羨ましく思ったらしい。
「それでね、私は冷え症じゃないからどうしたら手を温めてもらえるかな、と…思って…」
話していて恥ずかしくなってきたのか、小さい声でそう言ったきり彼女は黙ってしまった。ふと視線を移すと、黒髪の間から覗いた耳が赤くなっている。それであの表情か、と庭での彼女の顔を思い出す。
雪うさぎが作りたくなったというのも嘘ではなかろうが、その時にでも口実として思いついたのか。
「(なんじゃこの愛らしい生き物は…ッ)」
「んんッ」
思わず擦る手に力が入ってしまったらしい。
強く握ってしまった手を労わるように擦りながら声を掛ける。
「では、この冬は小狐丸が主様の手を温めましょう」