友人の夫は山みたいな男だ。熊みたいとか言うには余りに厳つい。

この山男、昔からサンリオを愛してやまない。特にマイメロディには目がない、次点はモフィである。

そう、彼はウサギに弱い。

彼の趣味は、彼の屈強な見た目による絶大な相乗効果で大多数に理解されない。

「大抵、二の句にキモい言われる」らしい。

彼は言う「男はみんな可愛いもんが好き」だと。


昨日は、この友人夫婦宅に招かれ、お邪魔してきました。

山男「ももこさんはさあ、解るでしょ、基本さ、男はさ、みんな可愛い女の子大好きじゃんかあ〜」

ももこ「いや解んない。わたし女の子だもん、マカロンとか大好きですもん」

山男「いやいやいや解るじゃん。こないだ解るって言ってたじゃん」

ももこ「やめろ。違う、巻き込むな」

山男の妻、わたしの友人は小柄で色白の愛らしいこだ。言われてみればちょっとウサギっぽいかもしれない、しかし外見に反して中身は修羅だ。

サギ子「いや、そんなことはどうでも良い。私は、ただ買いすぎだって言ってるの」

サギ子がテーブルに振り下ろしたティーカップから深紅のダージリンが僅かに飛散し、和やかな筈だったお茶会に戦慄が走る。

あなおそろしや。

しかしサギ子は決して鬼嫁ではない。サギ子はいつでも真っ当なのです。清廉潔白であるが故に、わたしのように人間の出来ていないものは恐れ、畏怖するのだ。

山男の「本来男の方が可愛さに弱い」説は、確かに少なくとも一瞬、そうかもしれないと思わせる力強さがあった。

しかし、山男が約束を破った、それがサギ子の逆鱗に触れた。その事実は、何をどんなに論じても揺るがない。


大柄な山男がサギ子に淡々と説き伏せられ小さく丸くなっていく。

わたしは犬も喰わない横槍が飛んでこないことに安堵して、サギ子が初めて焼いたというマカロンをつまんだ。

彼は馬鹿だ。何でもそつなくこなす器用な友人の焼いた、地味な色の少し平たいマカロンはマイメロディよりずっと可愛いのに。

山男よ、まだまだだな。

わたしのほうが君よりずっと、可愛いものが好きなのだよ。

だって女の子だもん。