「なぁ、ケルベロスは俺のことどれくらい好き?」
突拍子もなくかけられた問いは、私が今まで思考していたことを全て遮断し、かつ全てを忘却の彼方に吹き飛ばしてしまうほどに、強烈だった。
「・・・はい?」
何事かと振り返ってみると、彼の後ろで暢気なドラマを流すテレビが見える。
女性が両手を広げて見せる仕種をしているが、あれは多分「この腕には収まらないくらい」と言いたいのだろう。
如何にも陳腐で、少女趣味で、かつ七海くんが好きそうなネタだ・・・
「なぁ、どれくらい好き?」
もう一度問い掛ける七海くんの顔は、キラキラと期待に輝いている。
まるで、おやつをねだる子供のように。
だけど残念ながら、私はそんな幼稚な子供に甘いお菓子をくれてやるほで、優しい大人ではありません。
「・・・好きなんかじゃないですよ。」
「・・・・・・えっ!?」
一言、それだけを叩きつけてやると、七海くんは思い切りびっくりした後、青菜に塩をやったように頭を垂らしてしまった。
がっくりと肩まで落として、ちょっと大袈裟じゃないですか?
「・・・七海くん?」
声をかけてみると、くぅん、という犬のような声が聞こえてきた。
本当の捨て犬みたいに、俯き加減から上目遣いになって、少し潤んだ目で此方を見詰める七海くん。
・・・やめて下さい、美波さんや遠矢さんならともかく、大の男がそんな仕種したって気色悪いだけですから。
・・・そう、思ったのに・・・
「・・・しょぼーん。」
「擬音を口に出さないで下さい、いい大人が・・・」
半ば呆れているけれど、でももう半分では彼を放っておけない私がいる。
そんな顔されたら、ちょっと胸が痛くなるじゃないですか。
「・・・七海くん。」
そっと肩に手をかけて、耳元に口を持っていく。
丁度ドラマの方でも、同じように男性俳優が女性の方に囁きかけるような仕種をしていた。
あんな陳腐で、お決まりで、古臭いドラマの真似事をするなんて、本当は嫌なんだけど・・・
「・・・好き、なんて言葉じゃ言い表せないくらい、好きですよ。」
そう言うと、今まで萎れていた七海くんがいきなり背筋を伸ばして、私のことを熱烈に見つめてきた。
まるで主人に遊んで貰えると知った犬のよう。
嗚呼もう、これではどちらが犬だか分からない。
「ケルベロス・・・も、もう一回言って!!」
「もう言いません。」
あんな恥ずかしいこと、二度と言いません。
そう思いながら、私は逃げるように浴室へと姿を消した。
この調子じゃあ、今夜は寝かせて貰えそうにないだろうな・・・
ふとそんな心配が、頭をよぎった。
〜完〜
毎度お馴染み「See you next case」様に投稿しなかったボツ作品投下です(笑)
甘過ぎるってゆー理由でボツりました。
こんなん七ケルじゃない・・・つか、ケルベロスじゃない;