駆け寄ってくる友人の姿に気付いて、眺めていた携帯を閉じた。
「ごめん、待たせちゃったかな」
「俺も今きたとこ」
 なら良かった、そう言ってやってきた友人、コハクが笑う。
「じゃあ行こうか」
 俺が歩き出すとコハクもそのあとに続いた。目指すのは研究所だ。

 中学に上がってからは研究所への出入りも減っていたが、時折顔を出している。先週、博士を訪ねた際に聞いたのが試作パーツのテストの話だった。
 テストプレイヤーとして立ち合って欲しい。そう頼まれるのは初めての事ではない。
 新しいパーツをいち早く使ってみる事が出来る。断る理由はどこにもなく、今回もいつものように引き受けた。
 するとついでにもう一つ頼まれて欲しい、と珍しく注文がついた。それは腕の良い友人がいたら連れて来て欲しい、と言うとても簡単な事だった。
 真っ先に思い浮かぶ顔は、申し分ない腕の持ち主だ。

 ふと隣のコハクに視線をやると目が合った。
「どうかした?」
 それはこっちのセリフだと思ったが口には出さなかった。首を横に振るとコハクは曖昧に頷く。
「アズマの所は学ランなんだね」
 そう言えば制服で会うのは初めてだった。時間に多少の余裕はあったのだが着替えるとなると走る必要があった。それも馬鹿らしいので学校で少し時間を潰してから待ち合わせ場所に向かったのだ。
 横目でコハクの姿を見る。彼も制服姿だった。ちらっと見るだけのつもりだったのだが、つい見つめてしまっている自分に気付いて慌てて目を逸らす。
「学ランじゃないのが良かった」
 思った事をそのまま口に出すと隣で首を傾げるのが見えた。
「何で?合ってると思うけど」
 そう言うコハクの方こそブレザーがよく似合っていて、悔しいくらい格好良かった。きっと俺が着てもああはならない。
「うーん、何て言うか、ずるいなぁ」
「何が?」
 答えを求められていたのは分かったが、俺はそれ以上何も言わなかった。