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いつかやるは永遠にやらない

散文をまとめて支部にでもぶん投げようかと思ったんですがやる気配がないので公開しときます。
ここのをまとめるどころかいつ書いたか忘れたような書きかけのよく分からんメモを支部に投げたくらい適当な事になってます。
more...!

目次

※字下げしたりしなかったり超適当。
※数年後など妄想過多。
※大体一話完結。但し中途放置含む。

100819 気持ち悪い客 イッキ
100831 常連客 アズマ→イッキ
101002 寄り道しない日 アズマ、アリカ
101008 どうして アズマ→イッキ
101021 卑怯物 アズマ→イッキ
101028 アイスが当たった アズマ、イッキ
101102 第三者の意見 アズマ→イッキ、ヒカル
101211 別れの言葉 アズマ→イッキ
101212 白昼夢 イッキ
101226 雪よ降らないで アズマ、イッキ
110210 馬鹿だねクルミ→アズマ→イッキ
110228 知らずにいられたら アズマ→イッキ
110303 それは君ではない誰か アズマ→イッキ
110307 嫌いじゃない アズマ→イッキ
110413 期待損 アズマ→イッキ
110519  アズマ→イッキ
110626 恋ですから アズマ→イッキ
110626 休憩時間 アズマ、イッキ
110711 恋は盲目 アズマ→イッキ
110714 未来を夢見たりはしない アズマ→イッキ
111003 告白 アズマ→イッキ
111018 二人の日常 アズマ、イッキ
111021 アルバイト アズマ、イッキ
111028 恋の病 アズマ→イッキ
111214 君は格好良い アズマ、コハク
111215 願掛け アズマ、イッキ
111217 勉強 アズマ、イッキ
120106 意地悪 アズマ→イッキ
120202 変わらないままでなんていられない アズマ×イッキ
120202 トラウマ アズマ、イッキ
120203 友達と言う枠 アズマ→イッキ
120206 酔っ払い アズマ、イッキ
120210 引き際 アズマ→イッキ
120210 今だから言える事 アズマ×イッキ
120312 傷付きたくないだけ アズマ→イッキ
120326 台詞二つでSSバトン アズマ→イッキ
120401  アズマ→イッキ
120404 そんな言葉、聞きたくなかった アズマ→イッキ→アリカ
130402 四月一日 アズマ、イッキ
131111 悩みと遊び心 アズマ、イッキ
131219 Hallo myself DSアズマ、7アズマ
140220 積もりゆくもの アズマ
150827 同じ声の懺悔 アズマ、レトルト
160131 February Elegy アズマ→イッキ

February Elegy

 世の中の流れには疎い方だと思う。
 それでも何となくチョコレートに関するものを見れば思い出す。
 CMやポスターが目に入るからだろうか。それとも意中の人がいるからだろうか。
 バレンタインが近いのだと思う度に、どうでも良いような考え事をする。

 いつものようにコンビニへ寄り、欲しいものもないのに店内をうろつく。
 おやつでも買って帰ろうかとお菓子売り場を見れば目に飛び込んでくるのはバレンタイン販促用の大きなボード。対象商品を二つ買うと簡素なストラップが貰えるようだ。
 こんな物、誰が欲しがるんだろう。少なくとも自分はいらないなんて事を考えながらそれをスルーして駄菓子エリアを見やると、小さな四角い菓子に目がいった。
 一個20円のチョコレート菓子、ピロリチョコだ。

 このくらいなら渡しても変に思われないかもしれない。
 何を馬鹿な事を。
 気持ちが伝わらねば意味がないイベントじゃないか。
 別に伝わらなくったって。

 一気に思考が駆け巡り、そして止まる。
 スイカ味でしかもなんと種入り、明らかに売れ残りと分かる夏のテイスト。
 とりあえず買っていこう。誰かに渡すとか、そういう事ではなくて。
 ただ興味があったから買おう。他意はないけれど、二つほど。
 ピロリチョコを二つ取り、そのままレジに向かう。

「これ、お願いします」

「やぁアズマくん。これ、本当に買うの?」

 出されたものを見て、イッキさんは顔をしかめた。

「不味いんですか?」

「知らないけど、何か不味そうじゃん」

 チョコをレジに通し、合計金額が画面に表示される。二つで40円だ。

「じゃあ、あの、一つは、これ、イッキさんに、ど、ど、どうぞ」

「えっ」

 口をついて出た言葉に自分でも驚いたが、イッキさんはもっと驚いて言葉もないと言う様子だ。
 レジ台に並んだ二つのうち一つを差し出すと困った様に微笑まれた。物を渡された事自体への戸惑いか、不味そうなものを押し付けられた為なのかは分からなかった。

「ごめん、何かありがとう。勇気が出たら食べてみるよ」

 何だか思考は滅茶苦茶で心臓も爆発しそうだしどうしたら良いか分からなくなってくる。取り返しのつかない事をしてしまったような、これで良かったような。

「そうだ、これ入れておくから良かったら後で見て」

 何とか財布から十円玉を四枚取り出すと小さく畳まれた紙をチョコと一緒にレジ袋へ入れるところだった。

 え?何?
 どういう事?

 頭の中が更にぐちゃぐちゃになっていく。レジ袋を断るの忘れたとかどうでもいい事が思い浮かんだ。
 ひったくるようにして袋を受け取ると、まともな思考を取り戻す間もないくらいに急いで走って帰った。背中に「丁度だね、ありがとうございました」と言う声が投げかけられた気がする。気のせいかもしれない。そのくらい、思考は滅茶苦茶だった。

 帰宅すると真っ先に袋の中の紙を取り出した。ドキドキしながら開くと、ただの恵方巻きの予約用チラシだった。
 ため息をつき、袋をひっくり返す。ころんと転がるチョコの包装をはがすと口に放り込んだ。とろけるスイカ味のチョコレートと噛んで割れた種の混ざり合わない最低なハーモニー。
 売れ残りの理由は言うまでもない。

 馬鹿だなぁ。
 何に対してでもなく、妙に落ち着いた思考の中でそう思った。

同じ声の懺悔

「もう逃げ場はないぞ!レトルト!」

 レトルトを追い、部屋に飛び込んだアズマは叫んだ。
 古い工場跡の一室。そこは出入り口はただ一つしかなく、窓を破ろうにも埃を被った機材が窓際に並べられており通れるような状態ではない。脱出するには、入ってきた扉を通るしかない。
 そこを塞ぐようにアズマが立ちはだかる。
 レトルトはゆらりと立ち直すと、ポケットから何かを取り出した。

 メダロットを呼び出すつもりか。
 対抗すべくスマホを構えると同時にレトルトの手が動く。ポケットから出した物を投げたのだと理解した時には既に遅く、床に当たって甲高い音を立て転がると煙を上げ始めた。
 これでは姿が見えない。革靴が床を叩く音が急激に近づく。とにかく扉を守らねば。
 相棒を呼びだそうと口を開く。しかしそこから声が出る事はなかった。
 胸に圧迫を感じたかと思えば背中に衝撃が走る。

「ぐっ」

 胸倉を掴まれ扉に背中を打ち付けられたらしかった。
 目前に迫る仮面を漸く視界に捉える。腕を伸ばそうともがくも届く前に床へと薙ぎ払われた。肩を強かに打ち付け、痛みに呻く。

「ごめん、捕まる訳にはいかないんだ」

 声が聞こえるも、痛みに気を取られアズマには何と言ったのか頭が理解できない状態だった。
 一呼吸置いてハッとし、すぐに顔を上げるがレトルトの姿はとっくに消えた後だった。

 

*****

 

 アズマがふらりと店に入ると店員が駆け寄ってきた。それがイッキであると分かり、アズマは力なく笑った。

「イッキさん、こんにちは」

「ど、どうしたの」

「これですか?」

 頬のガーゼを指さすとイッキは頷く。

「転んだ時に擦ったみたいで……と言うか最近レトルトを追っていて、昨日はとうとう追い詰めたんですけど結局逃げられました。その時の傷みたいです」

 そこまで言うとアズマは深いため息を吐いた。
 話を聞くイッキはやけに深刻そうな表情をしている気がしたが、疲れ切ったアズマにはどうでも良い事だった。

「うん、何か、ごめん」

「何でイッキさんが謝るんですか。と言うか、これは別に全然大した事ないんですけどね。レトルトを追ってたのがバレて母さんにすんごい怒られた方がつらかったです」

「そっか、それは大変だったね。……でも、やっぱりあんまり危ない事はしない方が良いんじゃないかな」

「イッキさんまでそんな事言うんですね」

 うんざりと言うように肩を落とすとイッキは慌てて首を振る。

「いや、あの、ごめん」

「だから何でイッキさんが謝るんですか。でも、確かに夢中過ぎて気付かなかったけど、無茶しすぎたなとは思います」

 そう言えば、ごく最近誰かにも謝られた気がするとアズマは思った。それが誰だったのかまでは思い浮かばなかったのでそれ以上は考えなかった。

「まぁ、」

 言いながらアズマが顔を上げる。

「次はもう少し上手くやります」

 拳を握り締めてニッと笑うと、イッキは困ったような笑みを浮かべた。

積もりゆくもの

 雪が降り積もっている。
 冷たい欠片が次から次へと降り、見慣れた街や風景を白く染めていく。

 朝見た天気予報では霙程度の予報だった。下校の頃には予報通り、霙だった。
 しかし、出掛けようと鞄を置いて一歩家を出ると先程までの景色は一変していたのだ。
 雪は好きだ。しかし出掛けようと言う足を阻むのならば、それは憎らしく思える。

「今日はもう出掛けるのはよしなさい」

 立ち尽くしていると慌てた様子で母さんが飛び出してきた。
 見上げた空からは羽とも綿とも言えるような大粒な雪が舞っている。そして視線を落とせば、ほんのわずかな間にくるぶしほどまでの雪が積もっていた。
 後方の開いた扉の向こうからは雪の状態を伝えるリポーターの声が聞こえてくる。どうやら、相当積もりそうだと言う事らしい。
 諦めて家の中に戻ると今日は父さんが帰れそうにないようだ、と少し寂しげに母さんは教えてくれたのだった。

 部屋に戻ると窓から外を眺めた。
 どのくらい積もるだろうか。明日は何をしようか。
 いつもならそんな想像にわくわくする所だが、今日ばかりはそんな気分になれなかった。
 降り続ける雪を忌々しげに眺める事しかできない。

 実家へ帰るのだとイッキさんから聞いたのは二週間ほど前だった。一週間ほど仕事を休むと言うので、こっちに帰ってきて最初の勤務はいつかを聞いていた。
 その日が、今日の夕方頃だ。
 たったの一週間ぽっちだと彼は笑ったが、俺にとっては大きな事だった。

 俺を待っていてくれているだろうか。
 こんな雪だから来ないだろうと思っていつも通り仕事をしているのだろうか。
 それとも俺との会話なんて忘れて普通に働いているのだろうか。
 一週間の間に俺の事を忘れてしまっていないだろうか。

 もしかしたらもう会えないのではないか。

 雪が降り積もっている。
 気付かない間に冷たく静かに降り積もり、草木を押しつぶす。そしていつか物も、人も動けなくしてしまうのだ。
 それは降り積もる想いが心を重くしている、今の自分の心に似ているような気がした。

 もう降らないで。積もらないで。
 それは何に対する思いなのか。

Hallo myself

 誰だって夢を見る事はあるだろう。
 しかしそれを夢だと自覚する事は稀ではないかと思う。

 オレは今、その稀な状態にあるのかもしれない。
 何故ならオレの目の前に、アマクラアズマとしか言いようのない人物が居るからだ。
 勿論、鏡などそこにはない。どう見てもアマクラアズマはそこに存在している。
 これは夢だ。そうとしか思えなかった。

 しかし、意外にも頬を抓るとそこに痛みはあった。夢ならば痛みなどないはずだ。これはどう言う事なのか。
 オレはアマクラアズマではなかったのだろうか。そんな疑問が湧いて出てくる。
 思わず頭に手をやればそこにはいつものバイザーの感触。手に取ると、思った通りのそれがあった。

 目の前のアマクラアズマも、変な顔をしながら同じような事をしている。それがまた鏡かと言う錯覚を起こしそうになるが、ある事に気付いた。
 アマクラアズマの持っているバイザーと、オレの持っているバイザーはデザインが違う。アマクラアズマのバイザーはブルーの透ける鍔が特徴的だ。オレのバイザーは、全体が全て同じ素材で出来ている。

 ならば、きっとアレだ。アレに違いない。
 他人の空似。彼はアマクラアズマではないのだ。
あまりにもそっくりだから驚いたが、そう言う事ならばあり得ない話ではないだろう。

「君、名前は?」

 折角だから、そっくりさんの名前を聞いておこうと思った。
 そして、返ってきた答えに頭を抱えたのだった。

「アマクラアズマって言います。あなたは?」

 なんてこったい!

悩みと遊び心

「じゃあ、また明日」
 そんな風に言われて店をあとにするのは習慣のようなものだった。いつものように帰路につくと、ため息が零れ出た。
 今日も、言ってくれなかった。胸の内にあるのはそんな思いだ。

 この所、気にしている事があった。
 イッキさんが、近いうちに店を辞めてしまうらしい。そんな話を耳にしたからだ。
 とにかく、ショックだった。コンビニに行けば会えるのが当たり前の事で、いつの間にかそれはずっと続くものだと思い込んでいた。会えなくなる未来など、考えた事もない。
 そして、それはたまたま他の人が話しているのを聞いてしまったから分かった事であって、直接本人から聞いたのではない。
 イッキさんとはそれなりに親しくしていた、と思っていた。だからそのうち本人からその話を聞く事になるだろうと思い、心の準備だけしていつも通り振舞っていた。
 ところがどうだろう。イッキさんは一向にその話をしてくれないのだ。
 聞いた話が事実なら、その日はすぐそばに迫っている。忘れているのか、言うほどでもない仲だったのか。どちらにしても悲しくなるような理由でしかない。それを認めたくなくて、自分の方から聞く事ができない。そのうち言ってくれるのではと言う考えが捨てきれない。
 こんな事なら知ってすぐに聞いてしまえば良かった。そう思ったところで後の祭りだ。ため息をつくしかなかった。

 翌日。
 また明日と言う言葉通り、イッキさんを訪ねる。彼は相変わらずで、その話をしてくれる様子はなかった。
 ああ、またこのまま帰るんだな。そう思うと何だか笑えてきた。
 自分が何をしているのかよく分からない。どうしたいのかも。
「アズマくん、どうかしたの」
「どうしたもこうしたもありませんよ!」
 突然笑い出した物だから、驚いたイッキさんは変な物を見るような目で俺を見た。
「辞めるなら辞めるって何で言ってくれないんですか!イッキさんがそれさえ言ってくれたら俺はこんな馬鹿げた事しなくても良いんですよ!」
 そこから先は自分でも何を言っているのかよく分からなかった。それでも、溜まった不満は堰を切ったように次から次へと流れ出た。
 ぽかんとして聞いていたイッキさんも徐々に何の事を言われているのか分かってきたらしく、途中からはうんうんと頷いていた。
「残念だなぁ、バレてたのかぁ」
 一通り聞き終え、のんびりとした口調でイッキさんが呟く。
 残念ってどういう意味だ、と食いつく前にイッキさんは続けた。
「実はね、店は辞めるんだ」
「知ってますよ!!大分前から!」
「アズマくんに言わなかったのは理由があって、次の仕事場でビックリさせようかと思ってたんだよ。君はよく研究所に遊びに行くだろう?」
「確かに行きますけど、それが……」
 それが、どうかしたのか。
 そう言いかけて、やめた。どう言う事なのか分かってしまったのだ。
「研究所に来たアズマくんと鉢合わせてビックリ!とか面白いかなって」
「多分そんなビックリしないと思う、と言うか!面白いって理由で振り回された、俺の張り裂けるような思いって一体何だったんだ……」
 イッキさんはちょっとした遊び心くらいのつもりだったのだろう。あまりのくだらなさに思わず脱力してしまう。
 ふらふらっと外へ向かうと背中に声がかかる。
「アズマくーん、ごめんねー。怒ってる?」
 振り返り、首を横に振る。それを見てイッキさんは少し安心したような表情を見せた。
「帰るの?」
「帰ります。研究所に寄って、博士にイッキさんがボロ雑巾になるまで働きたいって言ってるって伝えてから」
「お、怒ってる!!ヤメテ!!!」
 一転して焦りの表情を見せるイッキさん。そして引き留めるつもりだったのかカウンターから出てこようとして、スイングドアに引っかかっている。ちょっと間抜けなその姿はもう少し見ていたかったが、その隙に俺は店を出た。
 悩んだ分の仕返しをしてやろうと思えば、今まで重かった帰路の足取りは嘘のように軽やかだった。

四月一日

 それは、いつものように店を訪れた時のこと。
 彼の口からこぼれたのは、別れを告げる言葉だった。
「今日で辞める事になったんだ」
 その言葉が持つ意味はあまりに大きすぎて、理解が追いつかずに思考が停止してしまう程の衝撃だった。
 それからどんな受け答えをして、家路についたのかも全く記憶にない。気付いたら自分の部屋にいて、ベッドで横になっていた。
 ぼんやりと眺める天井は、いつもより高いような気がした。


 意識を現実に引き戻したのは鳴り響く電子音だった。
 反射的にポケットの携帯を取り出すと、ディスプレイを覗き込む。そこには見慣れた名前が表示されていた。
「もしもし、今俺チトセの相手したい気分じゃ」
「あんた、学校来ないで何してるのよ。今日から新学期じゃない!」
「……え?」
 相手の言葉に思考が停止するのは、今日二度目の事だ。
 とは言え、先ほどよりは冷静だった。
「いや、ちょっと待てよ、まだ春休みのはず。だって今日は3月……」
 壁にかけてあるカレンダーの数字を目で追う。31日まで見て、カレンダーをめくっていない事に気付いた。
 ぺらりと紙を一枚めくると同時に脳裏によぎる一つの事象。
 そのまま手荒く3月のカレンダーを破り捨てると今日の日付を指差した。
「今日は4月1日……!」
 エイプリルフール。指差すそこには丁寧にそんな事が書いてあった。
「もう分かっちゃったの?タルトはすっかり騙されてくれたんだけどなぁ」
 がっかりしたようなチトセの声を遮り、用事を思い出したと言って通話を終了する。きれる間際に何か言ってるのが聞こえた気がしたが、聞こえなかった事にした。
 そんな事より、確かめるべき事があった。

 家を飛び出して先ほど訪れたそこに再び戻った。
 中に入り、見回すとお目当ての人はすぐに見つかった。
「イッキさん!もしかして嘘だったんですか!?」
 出た声は自分でも驚くほど大きく、半ば叫ぶようなものだった。
 彼は声に驚きつつ振り向く。
「辞めるって話?」
「はい」
「うん、そう、嘘。信じた?」
 微笑んで、彼は言う。普段より子供っぽい無邪気な笑みだった。
「隣でバイトの子が吹き出してたからバレたかなぁと思ったんだけどねぇ。すっかり騙されてくれて面白かったよ」
 彼はへらへら笑っているが、こちらからすれば笑い話ではない。
「イッキさんの馬鹿ぁぁ!!」
 衝動的にそう叫びながらきた時と同じ勢いで駆け出す。
 店を出る時にまた明日、と手を振る彼の姿がちらりと見えた。それがまた嬉しいのだから、悔しくて全力で駆けた。

そんな言葉、聞きたくなかった

 ふと、何でもない事のように。
 それは彼の口から零れた。
「付き合おうか」
 しっかりと聞きとったにも関わらず、理解は一歩どころか二歩も三歩も遅れた。


 アリカさんに付き合ってる人がいる事は知っていた。
 それがイッキさんでない事を知ったのはつい最近の事だけれども。
 そして、それをイッキさんが知らない事も。

 店を訪れて、顔を見て、すぐに気付いた。
 きっと、イッキさんは知ってしまったのだと。


 あと少しで仕事を上がると聞いて食事に誘った。
 いつもの冗談だった。いつも通り断られるのだと思った。
 良いよ。イッキさんはそう答えた。

 それからの事はよく覚えていない。
 気付くとイッキさんの家の前だった。
 人のいる所にはあまり行きたくない、と言っていた気がする。
 近くにいる事を許されたのは単純に嬉しい事だった。
 ただ、こう言う時の好意を寄せる者の立場は碌な物ではないのだと。
「付き合おうか」
 この言葉が物語っていた。


「最低ですね」
 オレが言うとイッキさんは曖昧に笑んだ。
「本当にね」
「そう思うのなら撤回して下さい。好きでもない癖に付き合おう、だなんておかしいです」
「どうかな、好きでなくても付き合えるものだよ」
 イッキさんの視線が落ちる。視線の先には何もない。
「そんなの、自棄になってるだけじゃないですか」
「でも、その方がキミには都合が良いんじゃないの」
 何を言っているんだ。本当にそう思っているのか。
 声が出るより先に、手が出ていた。掌が鈍く痛む。
 イッキさんが頬を押さえて床に這いつくばっている。
「オレは、イッキさんの事が好きでした」
 胸倉を掴み上げると吐き捨てるように言う。
「でも、今のアンタの事なんか大嫌いだ」

 噛みつくように唇を奪った。
 服の裾に手を差し入れても、服を剥いでも、首筋を強く噛んでも。
 何をしても、抵抗される事はなかった。
 愛し合う為の行為ではない。ただ、刻みつけるだけの。
 苦しいだけで気持ち良くなんてない。何の意味もない。

 こんな事を望んだ訳じゃない。
 だって、イッキさんのこんな姿を見たくはなかった。


 息を乱しながら、濡れた瞳がオレを見る。その姿を見下ろして、オレは言った。
「アリカさん、ずっとイッキさんの事待ってましたよ。待ちきれなくて、行ってしまったんです」
 本人から聞いた事だった。
 何故イッキさんではない人を選んだのかを問うと、アリカさんは困ったように笑って答えた。
 あたしはせっかちだから待てなかったのよ、と。
 オレが知っているだけでも十分過ぎるほど長い間、待ち続けているようだった。
「今すぐに走ればまだ間に合うと思いますよ。アリカさんはきっと、イッキさんに応えてくれるはずです」
 イッキさんが息を飲むのが分かった。
 その喉元を掴んで力を込める。ひゅっと喉が鳴った。
「でも行かせてあげません。もう、行けないですよね」
 深く穿たれたまま、イッキさんは顔を手で覆った。
 肩が震えている。ああ傷付けたな、と思った。
 それで良かった。
「ねぇ、今だけは聞きたくない言葉だったでしょう?」

 付き合おう、だなんて。
 オレも今だけは聞きたくない言葉でしたよ。

好意を寄せられている事には気付いていた。
その好意が、友人に対するもの以上だと言う事にも。

彼の気持ちを壊したくはなかった。だからずっと見守ってきた。
彼自身がその気持ちをどうするのか決める日までは、と。


何かを期待していたのだろうか。
彼の答えに言葉を失ったのは、ショックだったからだ。
「ああ、そう……」
当たり障りのない音の羅列を吐き出すと、できるだけ口角を上げるように努めた。
「隣と言ってもクラス替えでどうなるか分かりませんけどね」
表情が凍りついてしまっているであろう事には気付いていないのか、彼は構わず続ける。その隣のクラスの子がどんな子なのかを話しているらしいがまるで頭に入らなかった。
可愛い子だ、と言った彼の目が真剣だった事だけはよく分かった。真っ直ぐこちらを見ていたからだ。

好きな子はいるのか。頭の中で何度もその質問を繰り返す。
しかし、返ってくる答えは同じだ。隣のクラスに可愛い子がいて気になっている。

ああこれは後悔だ。そう気付くのは、彼が店を後にしてからの事だった。
後悔の理由は考えなかった。
考えるまでも、なかった。


*****


「お、今日から新学期かい」
 制服姿に声をかけると彼は素っ気なく返事した。
「そう言えばクラス替えはどうだった?」
 少し前に聞いた好きな子の話を思い出す。確か、その子は隣のクラスの子だと言っていた。クラス替えでどうなるか分からない、とも。
「別に普通でしたけど……」
 予想に反して彼は相変わらずの様子だった。
「普通って、好きな子はまた隣?」
「隣と言うか、この間の話は嘘です」
「えっ」
 気付くと間抜けな声が出ていた。顔も、きっとそんな感じだろう。
「四月一日、エイプリルフールの」
 思い返してみれば確かに四月一日だった。しかし彼が嘘だと言ってくれなかったので、嘘ではないのだと納得してしまっていた。
「何ですぐ言ってくれないの」
「言おうと思ったんですけど、イッキさんが」
 彼はそこで言葉を切った。不自然な切り方だった。
「オレが、何?」
 続きを問うが首を横に振るばかりで言おうとしない。
「騙したお詫びにそれくらい言ってくれても良いんじゃないの」
「いえ、多分言わない方が」
「何で」
「怒ると思います」
「ますます気になるんだけど。怒らないから言ってよ」
 彼は一歩下がると顔色をを伺いながら言った。
「あの時のイッキさんの表情があまりにも予想外で、がっかりしたような、そんな表情で、まるでイッキさんがオレの事好きみたいだなって思ってしまって」
「べ、別にアズマくんの事なんか好きじゃないし!」
 気付くと反射的にそう言い放っていた。

「ほら、怒った」
「怒ってない!」
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