雪が降り積もっている。
 冷たい欠片が次から次へと降り、見慣れた街や風景を白く染めていく。

 朝見た天気予報では霙程度の予報だった。下校の頃には予報通り、霙だった。
 しかし、出掛けようと鞄を置いて一歩家を出ると先程までの景色は一変していたのだ。
 雪は好きだ。しかし出掛けようと言う足を阻むのならば、それは憎らしく思える。

「今日はもう出掛けるのはよしなさい」

 立ち尽くしていると慌てた様子で母さんが飛び出してきた。
 見上げた空からは羽とも綿とも言えるような大粒な雪が舞っている。そして視線を落とせば、ほんのわずかな間にくるぶしほどまでの雪が積もっていた。
 後方の開いた扉の向こうからは雪の状態を伝えるリポーターの声が聞こえてくる。どうやら、相当積もりそうだと言う事らしい。
 諦めて家の中に戻ると今日は父さんが帰れそうにないようだ、と少し寂しげに母さんは教えてくれたのだった。

 部屋に戻ると窓から外を眺めた。
 どのくらい積もるだろうか。明日は何をしようか。
 いつもならそんな想像にわくわくする所だが、今日ばかりはそんな気分になれなかった。
 降り続ける雪を忌々しげに眺める事しかできない。

 実家へ帰るのだとイッキさんから聞いたのは二週間ほど前だった。一週間ほど仕事を休むと言うので、こっちに帰ってきて最初の勤務はいつかを聞いていた。
 その日が、今日の夕方頃だ。
 たったの一週間ぽっちだと彼は笑ったが、俺にとっては大きな事だった。

 俺を待っていてくれているだろうか。
 こんな雪だから来ないだろうと思っていつも通り仕事をしているのだろうか。
 それとも俺との会話なんて忘れて普通に働いているのだろうか。
 一週間の間に俺の事を忘れてしまっていないだろうか。

 もしかしたらもう会えないのではないか。

 雪が降り積もっている。
 気付かない間に冷たく静かに降り積もり、草木を押しつぶす。そしていつか物も、人も動けなくしてしまうのだ。
 それは降り積もる想いが心を重くしている、今の自分の心に似ているような気がした。

 もう降らないで。積もらないで。
 それは何に対する思いなのか。