好意を寄せられている事には気付いていた。
その好意が、友人に対するもの以上だと言う事にも。

彼の気持ちを壊したくはなかった。だからずっと見守ってきた。
彼自身がその気持ちをどうするのか決める日までは、と。


何かを期待していたのだろうか。
彼の答えに言葉を失ったのは、ショックだったからだ。
「ああ、そう……」
当たり障りのない音の羅列を吐き出すと、できるだけ口角を上げるように努めた。
「隣と言ってもクラス替えでどうなるか分かりませんけどね」
表情が凍りついてしまっているであろう事には気付いていないのか、彼は構わず続ける。その隣のクラスの子がどんな子なのかを話しているらしいがまるで頭に入らなかった。
可愛い子だ、と言った彼の目が真剣だった事だけはよく分かった。真っ直ぐこちらを見ていたからだ。

好きな子はいるのか。頭の中で何度もその質問を繰り返す。
しかし、返ってくる答えは同じだ。隣のクラスに可愛い子がいて気になっている。

ああこれは後悔だ。そう気付くのは、彼が店を後にしてからの事だった。
後悔の理由は考えなかった。
考えるまでも、なかった。


*****


「お、今日から新学期かい」
 制服姿に声をかけると彼は素っ気なく返事した。
「そう言えばクラス替えはどうだった?」
 少し前に聞いた好きな子の話を思い出す。確か、その子は隣のクラスの子だと言っていた。クラス替えでどうなるか分からない、とも。
「別に普通でしたけど……」
 予想に反して彼は相変わらずの様子だった。
「普通って、好きな子はまた隣?」
「隣と言うか、この間の話は嘘です」
「えっ」
 気付くと間抜けな声が出ていた。顔も、きっとそんな感じだろう。
「四月一日、エイプリルフールの」
 思い返してみれば確かに四月一日だった。しかし彼が嘘だと言ってくれなかったので、嘘ではないのだと納得してしまっていた。
「何ですぐ言ってくれないの」
「言おうと思ったんですけど、イッキさんが」
 彼はそこで言葉を切った。不自然な切り方だった。
「オレが、何?」
 続きを問うが首を横に振るばかりで言おうとしない。
「騙したお詫びにそれくらい言ってくれても良いんじゃないの」
「いえ、多分言わない方が」
「何で」
「怒ると思います」
「ますます気になるんだけど。怒らないから言ってよ」
 彼は一歩下がると顔色をを伺いながら言った。
「あの時のイッキさんの表情があまりにも予想外で、がっかりしたような、そんな表情で、まるでイッキさんがオレの事好きみたいだなって思ってしまって」
「べ、別にアズマくんの事なんか好きじゃないし!」
 気付くと反射的にそう言い放っていた。

「ほら、怒った」
「怒ってない!」