小説(ショートショート)用の、ちょっと特殊なお題バトンです。
文中のどこでも構わないので
「猫と犬どっちが好き?」
「お前が好きじゃない方。」
を入れてショートショートを創作して下さい。ジャンルは問いません。口調等の細部は変えても構いません。
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「アズマくん」
その声は横手から聞こえてきた。
連れに手を引かれるのを無視して声の方へ向き直る。そこには見知った姿があった。
「あれ、イッキさんどうしたんですか、こんな所で……」
ここは彼の勤めるコンビニのすぐ隣に位置する公園だ。会ってもおかしくはない場所ではあるが、実際に会うのは初めての事だった。
「仕事行く時間を間違えちゃってさ、時間潰してたんだ」
「案外間抜けなんですね」
少し恥ずかしそうに言う彼にすかさず突っ込むとサンバイザーを弾かれた。
「犬飼ってるんだ?」
彼はしゃがんだかと思うとリードの先の連れに手を伸ばした。連れはさっきまでぐいぐい引っ張っていたくせに急に大人しくなり、その手にすり寄っていく。
何だか面白くなくてサンバイザーのずれを直すついでに意地悪をして、少しリードを引っ張ってやった。甲高い声が抗議してきたが無視した。
「イッキさん犬、好きなんですか」
彼は慣れた様子で連れをくしゃくしゃにしている。そう言えば前に犬を飼っていたような事を聞いた気がする。
「うん、まぁね」
「へぇ。ちなみに猫と犬どっちが好きですか?」
問うと彼は首を傾げた。
「何で?」
「ほら、猫派と犬派って相容れない所あるじゃないですか、考え方が違ったりとか、何か色々と。どっちなのかなと思って」
言ってしまえばオレはどちら派と言う訳でもない。だから彼がどっちを好きでも構わなかった。
ただ共通点があったらもっと近付けるのではないか、と言う下心があるだけだ。
しかし、そんなオレの心を見透かすように彼は答えた。
「じゃあアズマくんが好きじゃない方」
「それはオレとはこれ以上近付けないって意味ですか」
ほんの少し声のトーンを落として言うと、彼は曖昧に笑む。
「どう思ってくれても構わないよ。でも、もっと他に気にする所があるんじゃないかなぁ」
意味ありげな視線がちらりとこちらを見た。目が合ってどきりとする。
胸を乱すオレを余所に彼は立ち上がると腕の時計に目をやる。「そろそろかな」と呟いて、さっきまで連れにしてたようにオレの頭をくしゃくしゃと撫でた。
「まぁ、本当はどっちでもないけど」
ずるい、とでも言うように連れが一声吠えた。