アルバイト募集。
 時給800円から。(研修時給750円)
 週1日3時間〜OK。土日できる方歓迎。

 入り口の辺りに新しいポスターを見つけた。
 何の変哲もない求人のポスターだった。まだ小学生のアズマには関係のない内容だ。
 足を止めたついでに並んだ数字を適当に読み取る。時給八百円。まだ小学生とは言え、これが高いのか安いのかくらいは分かった。
 安い。これがアズマの感想だった。

 店の中に入るといつもの声が真っ先に聞こえてくる。
「いらっしゃい」
 どうやら他の客はいないらしい。静かな店内で目当ての人は作業中だった。
「こんにちは。何してるんですか」
「品物の補充中」
 いくつか床に段ボール箱が並んでいた。箱は空いていて、いくつかカップ麺が入っているようだった。
 イッキはそれを手に取ると所定の位置に並べていく。地味で面倒臭そうな作業だった。
「今日は何か用かな?」
「別に用はないです。顔見に来ただけと言うか」
「アズマくんはそればっかりだね。オレの顔見ても面白くないでしょ」
 確かに面白くない。そう思ってアズマは正直に答えた。
「まぁ面白くはないですね」
 するとイッキはなにそれ、と困ったように笑った。それにつられるようにしてアズマも笑う。
 こんなどうでも良いひと時が好きでつい寄ってしまうんだなぁ、とアズマは思った。
「そう言うイッキさんこそ、毎日毎日働いてて飽きないんですか」
「うーん……飽きはしないかなぁ」
 品物を出し終えたのか、床の段ボール箱を両手に抱えるとイッキが歩き出す。アズマは何となくそのあとに続いた。
「アルバイト募集の張り紙見たんですけど」
「小学生は働けないよ」
 そんな冗談を言いながら扉の奥にイッキの姿が消えたかと思うとすぐにまた現れる。両手の段ボール箱はなくなっていた。
「で、何?」
「給料安いし面倒臭そうな仕事ばっかりやってるし、何でこんなバイトやってるのかなって」
 アズマが見上げると、イッキは言葉を詰まらせた。
 言葉の代わりに息を一つ吐き出す。
「……難しいなぁ」
 前髪をくしゃくしゃっと撫でて、イッキは呟いた。
 視線はどこか遠くを見ている。呟きはアズマに向けた物ではなく、独り言のようだった。
「どうしました?」
「いや。……まぁ、アズマくんにそう言う疑問を持たせないような人になりたくてね」
 イッキは歯切れの悪い言い方をした。意味が全く理解できずにアズマは首を傾げた。
「うーん?」
 考えるが答えには辿り着きそうになかった。
 ただ、分からなくもないと言う気持ちがほんの少し、ある。例えば、心地好いひと時を誰かに提供できる存在になれたなら。
 でも、と話しだすのが聞こえて考えるのを中断した。視線をイッキに向ける。
「この仕事やってて良かったって思うんだ。オレに会いに来てくれる可愛いお客さんもいるしね」
 イッキはにこりと笑った。
 そう、こんな風に笑えるような。

 イッキの言った可愛いお客さんが自分の事だと、アズマが気付くのは話が終わった後の事だった。