ゆらりと目の前で揺れる指先に釘付けになった。
手を伸ばそうかとひととき悩んで、やめた。もし振り払われでもしたら、どうしたら良いか分からない。
しかし諦められない、と思った。今しかない、とも。
「あの」
先を歩く彼に声をかけると、振り返らないまま返事があった。
「手を、繋いでも良いですか」
急にうるさくなりだした胸の鼓動に気付かれないよう、静かに告げる。
それから二、三歩足を進めた。ほんの短い時がやけに長く感じる。
「今?」
待った割に返ってきたのは素っ気ない声だった。そんなものだろうと思っていた。
とは言え、いざ耳にすると僅かな距離の間にある壁を思い知らされる。そのおかげか、浮ついた気持ちは嘘のように消えていた。
「今です」
「何で?」
「今、そうしたいと思ったからです」
こうしている間にも足は止まらない。目的地までの距離は、そう残されていない。
このままうやむやにするつもりなのかもしれないと思った。あからさまな事は言わないけれど、それとなくかわされてしまう事は珍しくない。
「じゃあ後で」
「その”後で”がやってくる保証がありません」
ここでかわされたなら、この後もかわされ続ける事になるかもしれない。だから引き下がらなかった。
「それは君次第なんじゃないの」
相変わらずの素っ気ない声。
それがどれだけ難しい事か、分からない訳でもないだろう。試されているのだろうか。何にしても意地が悪い、と思った。
「明日も、明後日も、その先にもこうして一緒に歩く機会があるとして、手を繋ぐのに今以上の機会ってあるんですか」
「どうだろうね。続けられれば、その時が巡ってくるかもしれない」
歩幅の違いから空いた距離を早足でつめる。
相変わらず指先は同じ所で揺れていた。それはずっと同じだろうか。
「オレ達、出逢ってからどれだけ経ちましたか。……時が過ぎるのは、あっと言う間ですよ」
きっと、時が距離を変えてしまう。気持ちが変わらなくても、全てが変わらずになんていられない。
「来週、来月、来年と時が過ぎればその分、オレは大きくなりますよ。ねぇ、イッキさん」
服の裾を掴んで、足を止めた。
引っ張られたと分かった彼は、漸くこちらを振り返った。
「中学生のオレと、高校生のオレと、手が、繋げますか」
俯いて、告げる。顔はとてもではないが、見る事ができそうになかった。
返事は、ない。待ち切れず、再び尋ねた。
「今以上の機会って、ありますか」
それでも返事はなかった。何か考えているのだろうか。見えないけれど、彼は眉を寄せて困ったような顔をしている気がした。
すぐに物事をかわそうとするのは、押しに弱い所があるからだと知っていた。今があるのも結局は彼が押しに負けたからだ。
少しして、服の裾を掴む手を振り払われた。力はもう入れていなかったから、簡単に手が離れる。
気付けば宙に浮いた手を取られ、引っ張られていた。
「面倒臭い。そう言うの、凄く面倒臭いよ」
漸く返ってきた返事と言えば、ぶっきらぼうなこの二言だった。
力強く引かれる腕。
しかし握る手の感触は優しくて、振り解ける事のないように強く握り返した。