昼過ぎの休憩時間。食事を終えると特にする事もなく、だからと言って働く気にもなれず。椅子に腰掛け意味もなく時間を潰していた。
長時間勤務の時には大体こうしている事が多い。特に食後と言う事もあって、眠気に襲われてぼんやりとしやすい時間なのだ。残りの休憩時間を確認して、息を吐いた。


それから少しして。
お客さんの来店を知らせるピンポーンと言う音が店内に響くのが聞こえた。レジには今日の相方の先輩がいるから出て行く必要はない。椅子に腰掛けた姿勢のまま、目だけを机上のディスプレイに向けた。二台あるディスプレイのうち、片方は店内の様子を映し出している。
分割された映像の中から出入り口に近い物を見やると、丁度来店したお客さんの姿が映っていた。白いサンバイザーの子供。すぐに誰だか分かった。
いつもなら休憩中でも顔を出す事が多い。今日は何となく、監視カメラ越しにその姿を追ってみる事にした。

まず、レジの方を一瞥。そこには別の店員がいるだけと分かるなり、キョロキョロとしながら歩き出す。
確か彼は昨日来た際にオレの予定を聞いていった。だから、居るはずのオレを探しているようだ。レジや売場にいない時は大抵どこかしらから顔をのぞかせたオレが声をかける事が多かった。もしかしたらそれを待っているのかもしれない。
結局店を一周しても見つからず、彼は肩を落としてレジ前までやってきた。その視線の先には、恐らく先輩。
オレがいるかどうか探すよりも、聞いてみる方が確実だ。しかし彼は躊躇っているようだった。それも当然。あの先輩は子供嫌いだから話しかけない方が良い、と教えたのはオレだからだ。
どうするのだろうか。先程までの眠気はどこへやら。気付けば、身を乗り出してディスプレイをのぞき込んでいた。ふと我に返って、時計を一瞥する。もう一度息を吐いて。

画面の中の彼は暫し俯いていたが、やがて意を決したのか顔を上げた、ような気がした。


「あ、あの」
「やぁアズマくん」
事務所の扉を開けて、カウンター越しに声をかける。彼の口があんぐりと開いた。

先輩に品出しに行くとだけ告げ、カウンターを出る。大口を開けていた彼ははっとしたように、その後に続いた。普段からあまりレジを出たがらない先輩がそれから少し遅れてお願いします、と素っ気なく答えたのが聞こえた。


「出てきてくれないんでいないのかと思いました」
少し拗ねたように、彼は言った。
「ごめんごめん。でも良い暇つぶしになったよ。ありがとう」
「?」
そう言って笑んでみせる。何の事か分からず、彼は首を傾げた。
その頭をくしゃくしゃと撫でてやって、仕事に取りかかった。