ぎぃ、と軋む様な音が聞こえた。
浮上する意識。瞼を持ち上げると目の前に顔があった。
「……」
焦点が合わず、誰なのか良く分からない。少し考え、ここにいるであろう少年の事を思い出した。
「ああ、起きちゃった」
彼はそう言って、身を引いた。
「ん……なんじ?」
「も、もうすぐで12時です」
のっそりと体を起こすと、時計を見やった。彼の言った通り、短針は12まであと少しと言う所まで迫っている。
それなりの時間が経過した事になる。途中で帰るだろうくらいに思っていたが、彼は予想に反してずっと留まっていたらしい。
「こんな何もない所にいて楽しい?」
何となくそう尋ねると彼は考えるような素振りを見せる。
「えと、何して時間潰してたの」
答えやすいように質問を変えてやると、すぐに答えが返ってきた。
「新しく買ったパーツがあったんで、それ組んでみたりとかしてましたよ」
ポケットから携帯を出して見せてくれる。緩む口元から、楽しくて仕方がないのだと言う気持ちが読み取れた。
つられてこちらまで口元が緩みそうになるのを堪える。つられて笑うなんて、してやられたような気がしてならない。顔をそれとなく逸らしながら、話を変えてしまう事にした。
「何しようとしてたの」
今までしていた事ではなく、今し方していた事を尋ねる。
ちらと彼の表情を覗うと目を泳がせていた。思っていたのと違った様子ではあったが、何のことかは分かっているようだ。
その反応が面白くて、追求してみようと思った。目線を合わせ、顔を覗き込みながら続ける。
「近かったね、顔」
もちろん何をしようとしていたかくらい、察しはついていた。詰め寄ると、それと同じだけの距離を彼は後ずさりする。
「別に何もしてませんよ」
「しようとはしてたでしょ」
「さあ、何の事でしょう」
壁際まで追いつめる。彼はそっぽを向いた。
「怒らないから、言いなよ」
視線の先へ回り込むようにして顔を覗く。距離は、先程目覚めた時と同じくらい。
「多分、イッキさんが思ってるので合ってます」
「分からないなぁ。教えてよ」
にこりと笑んで見せると、彼は逆に眉根を寄せた。
「イッキさんって、Sなんですか」
「どう思ってくれても構わないよ」
壁に張り付くようにしているけれど、これ以上の逃げ場はもうなかった。距離をもう少し詰める。彼が息を飲むのが聞こえた。
「……キスしようとしたんです。いけないですか」
一息の間をおいて、そう告げられる。視線をそらす、その仕草がおかしくて思わず噴き出した。
「なんで笑うんですか!」
「だって、そこまでして隠すような事じゃないだろう?」
キス以上の事を半ば強引に迫った彼が、こんな事を恥じらうなんておかしい。言わんとしている事は分かったのか、彼は押し黙った。
「でも、……何だろう。オレはそう言うの、嫌いじゃないかもしれない」
ひとしきり笑い、思った事をそのまま口にする。彼は目を丸くさせた。
その姿を見ながら、やはり家を教えたのは失敗だったのだろうと思った。触れてみたい、と少しでも思った自分に気付いていたから。