ピンポーン、とチャイムが鳴った。
時間は分からないが、カーテンの隙間から覗く明るさから言うと昼前くらいだろうか。
チャイムに起こされる事はそう珍しい事ではなかった。寝間着のまま玄関へ向かう。
外を確かめずに扉を開けるが、チャイムを鳴らしたらしい人物に当たってしまい、開かなかった。
「あれ?」
思っていたのと違う出来事が起こり、思わず声を上げる。頭が理解するより先に、鼻を押さえた少年が扉の隙間から顔を覗かせた。
「こ、こんにちは」
どうやら突然開いた扉に顔をぶつけてしまったらしい。
「アズマくんか……ごめん、急に開けて」
「いえ、大丈夫です。オレこそ朝からすみません。寝て、ましたよね?」
言葉の代わりに頷いてみせると、彼は申し訳なさそうに頭を垂れた。やり方が上手い。そんな風にされたらこう言うしかないのだから。
「……まぁ、あがりなよ」
にこり、と微笑んだ彼を見ながら家を教えたのは失敗だったと思った。うっかり家にあげてしまい、越えるべきでない線を越えてしまった事はまだ記憶に新しい。
どう言うつもりで彼が来訪したのかは分からないが、あまり良い事のように思えなかった。

「何か、用?」
「いえ特には。店に行ったら休みだって聞いたんで」
ベッドに腰を落とすと、まだ暖かい布団に呼ばれているような気がした。誘われるまま体を倒せばどこからか眠気がやってくる。
「じゃあもう少しだけ寝かせてよ」
言うと、彼は頷いた。それを見るなり布団へ潜り込む。
「あの、ここに居ても良いですか?」
「何もなくて良ければ」
返事は聞こえてこなかった。それでも良い、と言う事だろう。
目を閉じるとすぐに意識が微睡んだ。

「まだ起きてますか」
暫し間を開けて、彼が言った。
「誰が、来たんだと思ったんですか?」
それは答えを求める問いだった。
聞こえていたけれど、寝ているフリをする。関係のない事だ、と胸の内だけで呟いた。
気付いているのかいないのか。それ以上、彼は何も言おうとはしなかった。