「降るかなぁ」
 ガラスの向こうの空を見て、呟く。
 朝見た天気予報では今日は冷え込んで一部の地域では雪が見られるかもしれないと言うものだった。
 空は曇っている。降り出してもおかしくはないように見えた。
「降るって雪かい?」
 すぐ隣から声が聞こえて、視線を外から戻す。イッキさんは外へ憂鬱そうな目を向けていた。
 大人にとって雪は単純に良い物と言う訳ではないらしい事は知っていた。オレ達みたいな子供の事をよく分かってくれるイッキさんもそうなのか、と思うと少し寂しい気持ちになる。大人は少し回りくどい所があってよく分からない。そこが好きではないからだ。
 答えを待っているのか、イッキさんがこちらを見た。慌てて口を開く。
「天気予報で降るかもしれないって言ってたから」
「オレもそう聞いたよ」
「嫌そうですね」
 はっきりそう告げるとイッキさんは曖昧に笑んだ。
「降るだけなら良いけど、積もったら雪かきとかしなきゃならないからね」
「年に何回もない事なんだから良いじゃないですか」
 そうなんだけど、と小さく呟くのが聞こえた。
 イッキさんはじっとこちらを見つめている。少しの間そのままでいたけれど、ふっと目をそらされた。
「オレは雪かきなんかよりも、アズマくんとこうして何でもない事を話していられる方がずっと良いし、好きだよ」
 一瞬、息が詰まったような気がした。
「え、それ、どういう……」
 何とか声を絞り出すけれど既に仕事へと向かったイッキさんには届かなかった。返事は、ない。
 ぽつんと残されて、もう一度外を見やる。相変わらずの曇り空だけれど、先程の浮いた気持ちはなくなってしまっていた。