「当たった!!」
先程見送った姿が店の中へと戻ってきた。
嬉しそうな笑みを浮かべて、アイスの棒をこちらへ突きだしている。その先には“あたり”の文字。
「良かったね。もう一本持って行って良いよ」
釣られるように表情を緩めてそう声をかけると、彼はアイスのショーケースへと駆けていった。
外をちらと見やる。風で枯葉が舞っていた。アイスの季節はもう終わったと言っていい気候になりつつある。
しかしショーケースを覗き込む姿はまだ半袖だった。彼は枯葉の踊る中、氷菓を平らげたはずである。それでもなお、当たったからと嬉しそうに手を伸ばしている。
寒くはないのだろうか。単純に、そう思った。
彼はすぐに戻ってきた。先程と同じものを片手にぶら下げて。
「袋、いるかい?」
持って帰るかもしれないと思い、一番小さい袋をひらひらと見せる。しかし彼は首を横に振った。
「あ、あの」
躊躇いがちに口が開かれる。何かな、と促すとその手のアイスを差し出された。
「?」
「あげます!!」
「えっ」
驚いた。それから、何を言ってるのかと思った。
「いや、アズマくん当てたんだからアズマくんが食べなよ」
「お、オレはいいです。ほら、外も結構寒いし」
それは半袖がいけないんじゃないかとも思ったが、真剣な顔をされては言えなかった。
「持って帰れば?」
もう一度、袋をひらひらとさせる。けれども、やっぱり彼は首を横に振るばかりだった。
「オレは、イッキさんにあげたいんです!」
ずい、とアイスが差し出される。彼の表情を窺う。曇りのない真っ直ぐな瞳がこちらを見ていた。
何となく寒そうだから、と断る気になれなくて。断る理由なんて他にいくらでも考えられたけれど、そうする気にもなれなくて。
「ありがとう」
大人しくそれを受け取って、笑んでみせると満面の笑みが返ってきた。
理由は良く分からないが、彼はとてもうれしそうだった。