どうしてこんな事に。イッキの頭の中はその一言でいっぱいだった。
 目の前で少年が微笑んでいる。いつも見ているはずのその笑みは知らないものに見えた。

 自宅に少年を招いただけだった。招いたと言うよりは押し入られたと言うべき、強引なやり方ではあったが。
 それでも別に彼の事は嫌いではなかったし、むしろ可愛がっていた。だから構わなかった。
 ただ少年、アズマの口からそれを告げられるまでは。

「好きなんです」
 それが恋愛における好意である事は明らかだった。そして、それがイッキへ向いている事も、また。

「え、と……そんな事、急に言われても……」
「急じゃ、ないですよ」
 視線を落として、アズマが言う。
「ずっと、待ってました。オレ、二人きりになれるの待ってたんです。ずっと、ずっとです」
 ちらとイッキを窺うように瞳が動いて、また下を見た。
 いつも会うのはコンビニで、だ。当然他のスタッフもいれば客がいる事もある。こんな話をするのには賑やかすぎる。
 だから強引に押し入ったのかとどこかで思いながら表情を窺う。アズマの表情は泣きだしそうにも見えた。
「おかしい、って思いますよね」
「そんな事は……でも、もっと他に良い人がいるんじゃないかな」
 アズマが顔を上げた。イッキを見つめて首を横に振る。
「駄目です。イッキさんじゃなきゃ、駄目なんです」
 瞳は真剣だった。
 しかしイッキはそれに応える言葉を持ち合わせていない。嫌いではないし、だからと言って好きなのかと問われると、よく分からない。ただ、可愛がっていたと言うくらいなもので。
「……君は、まだ子供だ。急ぐ事なんてないだろう。もっとよく考えても」
「子供?だから何だって言うんです。何もせずに後悔するのは大人も子供も同じでしょう」
 アズマが詰め寄る。思わずイッキは身を引くが、すぐそこまで顔が迫っていた。
「子供だって大人とそう変わらないと思います。……試しますか?」
「え、な、何を……っ」
 気付いたら、声を遮られていた。唇が塞がれたのだと理解するのに一瞬の時を要し、それがキスだと分かる頃には頭を抱え込まれて逃げ場はなくなっていた。
 開きかけの唇をぬるりとしたものが這う。そのまま滑り込んできた舌の感触に、イッキは肩を揺らした。
「んっ」