傾いた日が空を、それからいつも見ている景色を、赤く染めている。公園からの帰り道も、綺麗に染まっていた。そう言えば、しばらくこんな景色を見ていなかったような気がする。
 帰りはコンビニに寄る事がほとんどだったが、今日はまっすぐに家を目指していた。夕日に染まる道を歩くのも、寄り道をしないからだろう。
 何となく、コンビニに寄る気分ではなかったのだ。それでも行こうか悩んだのだけれど、結局行かない事に決めた。
 毎日のように通い詰めていた。しかし今日は行かない、とそう決めてしまえばずっとそうしていたように家へと足が動いた。気付いたらコンビニの前にいました、と言うような事もなく。
「アズマくん?」
 後ろから女の人の声がした。それは知っている声だった。
 少し、ドキっとした。でも無視する訳にもいかず、足を止めて振り返る。
「こんにちは、アリカさん」
 カメラを首から下げたアリカさんが隣に並ぶ。声には出さなかったが一緒に歩こう、と言う意味だとすぐに分かった。だから止めていた足をまた進める。
「こっちの方に来るなんて珍しいですね。行き先はもしかして研究所ですか?」
「当たり。よく分かったわね」
「そりゃあこっちの方には研究所くらいしかありませんし。この間、研究所の話してたじゃないですか」
 この間、と言うか昨日の話だけど。どうでもいい事だと思って訂正はしなかった。
「そう言えばアズマくんがいる時に話したんだっけ」
「はい」
 アリカさんは何か考えるように腕を組んでちらとこちらを見た。視線を返すと、口を開く。
「今日はコンビニ来なかったのね」
「それが何か?」
「イッキが今日は来てないなぁなんて呟いてたから」
「えっ」
 出てきた名前に思わず反応してしまう。
 気にしてもらえているのだと分かると少し嬉しかった。でも、嬉しいだけじゃない。胸が詰まるような感覚が押し寄せて、俯いた。
 今日は、行かなくて正解だったのかもしれない。