いつものように、自動ドアをくぐって店の中へ飛び込む。
 レジの方を見やればいつもの店員さんの姿。こんにちわ。そう声をかけようとして、思い留まった。
 丁度、お客さんがペットボトル片手にレジへとやってきたところだった。声をかけたところで相手にはしてもらえないだろう。
 店の中へ足を進めながら様子を窺う。お客さんがレジに出したのはペットボトル一本。すぐに会計は終わるだろう。そう予想して雑誌の方ではなくレジの方へと向かった。
「たばこ」
 お客さんが呟くように言った。嫌な言い方ではなかったけれど小さな声で、一音ずつはっきりと言った。不思議な物言いだと思った。煙草なんてレジの向こうにはたくさんの種類が並んでいるのに、種類を指定する言葉は続かない。
 それを店員さんは尋ねるでもなくただ一言はい、とだけ返事して後ろの煙草へと手を伸ばしたのだから驚いた。
 間もなく会計が終わって、レジ前が空く。お客さんは足早に店を出て行った。
「こんにちわ、イッキさん」
「いらっしゃい」
 声をかけると店員のイッキさんはにこりと笑んだ。営業スマイルと言う奴だろか、とは思いつつも迎えてくれるこの笑顔が嫌いではない。むしろ、好きなんだと思う。
「かいものかい?」
「イッキさんはホントそればっかですよね。買い物以外の目的で来ちゃダメですか」
 少しうんざりしたように肩を落として見せるとまたイッキさんは笑う。今度は困ったように。
「そんな事ないよ」
「ホントにそう思ってます?……まあ、それは良いんですけど」
 ちら、とイッキさんの後ろに並べられた煙草に目をやる。
「さっきのお客さん、たばことしか言わなかったのにどれが欲しいのかどうして分かったんですか?」
「……ああ、さっきのね」
 煙草には商品名と一緒にそれぞれ番号が書いてあり、端っこの番号は「120」だった。つまり、120種類の煙草があると言う事なのだろう。
 視線をイッキさんに戻す。見上げるとイッキさんは続けた。
「働いてると、分かってくるんだよね」
「えっ」
 どう言う意味なのか、よく分からなかった。
 一瞬、人の考えてる事が分かるようになるのかと思った。もしそうならこの胸の内にしまってあるものを知られている事に……それは、困る。そこまで考えたところでそんな訳はないだろ、と自分に突っ込みを入れた。
「ごめん、言い方が悪かったね。さっきの人なんかがそうなんだけど、よく店に来る人とか同じ物を買ってく人とかって顔覚えるからって意味」
「へぇ」
 分かると言うよりはどの煙草を買っていくか覚えていたと言う事らしい。そう理解して、息を吐いた。
「見てると分かったりする事もあるけどね。元気なさそうだな、とか」
 口が「あ」の形に開く。
「そ、それって……オレの事とか、も、ですか」
 さっきそんな訳ない、と振り払った考えがいつの間にか戻ってきていた。本当に、何も知らずにいるのかどうかちょっと自信がなくなる。気付かれているんじゃないか、とか。
「ふふ、どうかな」
 知ってか知らずか、イッキさんは悪戯っぽく笑った。