私は生まれてすぐ両親を無くした
名もわからない私を遠い国のとある家が引き取った

そこには私と同じ親のいない子供がたくさんいて


“彼”がいた



「アリア、」


金色の花が咲く、丘
泣いていた私の頭を“彼”が優しく撫でた


“アリア”と言う名は“彼”が付けてくれたのだと10才の時に知った

どこかの国の神様の名前



「アリア、」


しゃがみ込んでいた私の隣に“彼”が座った


「龍真はいつも私をいじめるの」



龍真はいつも私をいじめる
言い返しても、やり返しても
私は負けて、この丘で一人泣いた

そうすると“彼”が来てくれた


「龍真は今辛いんだよ」


私を引き取った家

“金城”

龍真はその家で唯一血の繋がった金城の子だった

私の“母親”であり
“龍真の母親”は病気でずっと寝たきりだった



「きらい…龍真なんてきらい…」


私をいじめる龍真も
本当の両親のいる龍真も

きらい

きらい

大きらい


「…お兄ちゃんは龍真の味方をするの?」


私は顔を上げて“彼”の横顔を見た

そうすると“彼”は困ったように笑った


「俺は、いい子の味方だよ」


金色の花を一輪摘んで笑った


「アリアも龍真も大好きだよ」

優しい微笑み
私の涙を拭ってくれた

金色の花と白いお花を組み合わせてお花の王冠を作って私に被せた


「帰ろうか泣き虫お姫様」


そう言って私に手を差し出す
私はその手を取った


「私、私もお兄ちゃんのこと大好きだよ!」


私よりずっと背の高い“彼”を見上げる

泣いていたことなんて忘れたくらい笑った


「私ね。お兄ちゃんのお嫁さんになりたい!」



私は“彼”が大好きだった

誰よりも

誰よりも



「ありがとう」



“彼”は照れたように、でもどこか寂しそうに笑った





帰って来た私を見て龍真が

「ごめん」

と小さくつぶやいた












私が16才の時
龍真の、私の母親が息を引き取った


「“母さん”ありがとう」


あの丘で泣いていた私を迎えに来てくれた時と“変わらない少年のままの彼”が母に悲しそうな笑み浮かべて手を握った

私たちは泣いた

でも“彼”も龍真も泣かなかった


「なぜ龍真は泣かないの?」


そう言った私を龍真は優しく抱きしめた

あたたかった


龍真が私をいじめることはずっと前になくなっていた




その翌年

空軍の龍真の、私たちの父親が事故で亡くなった


私たちはまた泣いた

でもやっぱり“彼”も龍真も泣かなかった



龍真が“金城”を継ぐことになった

毎日勉強する龍真の背中を私たちは見ていた


その背中を誇らしく感じた





18才の時

“彼”の赤い瞳をはじめて見た

悲しそうな瞳

身体を抑えて苦しむ姿


私は大好きな“彼”を守りたいと思った







「龍真の背中…私好きだな」


とある日私はポロリとそう“彼”にこぼした

ほとんどの兄弟たちは一人立ちしていって、
金城の家には私と龍真と妹と弟、そして“彼”だけになっていた


「今はきらいじゃないの」


私は笑った

きらいだった龍真

今は誇らしいと思う



「アリア、龍真を支えてあげてくれないか」


“彼”は優しい笑みを浮かべた

龍真となら“彼”を守れる





22才になった日


「君を、“家族”を幸せにしたい。」


ずっと大人になった龍真が真面目な瞳で、声で私に言った


「僕と一緒に“家族”を守ってくれないか」


私の薬指に指輪を通した

私は頷いた


“守りたい”

“彼”を守りたかった


あの時と変わらない少年のままの“彼”は私たちのことを祝福してくれた


幼い日の夢は実現できないとずっと前に知っていたから、私は龍真の手を取った

“彼”がある日言ったように私は龍真を支える存在になった




龍真と結婚して数年

たくさんの子供ができた

一人も血は繋がっていない

でも愛しい子供たち


私たちの間に血の繋がった子供を作ることは出来ないと医者に言われた



一人泣いた私を“彼”はあの幼い時のように優しく頭を撫でてくれた







“彼”が私のことを

「母さん」

と呼ぶようになった

“彼”は変わらない
ずっと少年のまま


でも日に日にその心が冷めていくことに私は気づいた

だから私は“彼”を抱きしめた







「“アリア”、みんな、ありがとう」


彼は私に背を向けた

“彼”が行ってしまう

ずっと守ってきた“彼”

泣き崩れた私


ずっと幼い日が蘇る

私は泣き虫のままだった



行かないで
行かないで


私の愛しい人




「毬夜…、」