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とある少年の話


僕の“家族”は普通と違って
いろいろな国から親を亡くした子供たちが僕の“兄弟”だった

僕だけ両親と血が繋がっていた

他の兄弟たちの羨望の眼差しが怖かった

だから強がったフリをした

その強がりを見抜いたのは“彼”だった




「またアリアと喧嘩したのか?」


“彼”は僕の目線に合わせるようにしゃがんだ
僕は目を逸らした


アリア

赤ちゃんの時、僕の“家”にやってきた二つ年下の金色の髪に青い目をした女の子


「アリアが生意気なことを言うからいけないんだ!」


年下のアリアは生意気でいつも些細なことで喧嘩をした


僕はいつからか、アリアのことが気になって仕方なかったんだ

でもアリアは僕のことは嫌いで


「龍真、女の子を大切にしなきゃ“母さん”が悲しむ」


“母さん”
僕とアリアと兄弟、
そして“彼”の母親


母さんは病気でずっと寝たきりだった


「母さんは龍真に優しくて強い男の子になってほしいんだよ。」


“彼”はそう言って僕の手を優しく握った

弱々しくなっていく母さんを見て、僕はとても怖くなるんだ



「龍真は強い子だって俺は知ってるよ。」

ふいに目の前が霞んだ
泣いていると気づいたから泣いてないフリをした

それすら“彼”は見抜いていて僕の頭を優しくて撫でた


「…ごめん…なさい…」


ボロボロとこぼれ落ちていく涙がかっこ悪くて、嫌だった


「ごめんはアリアに言うんだよ」


“彼”はもう一度僕の頭を撫でて、“アリアを迎えに行ってくるよ”と立ち上がった

僕は必死に涙を拭って“彼”を見上げた



「兄ちゃんみたいに優しくなれる?」


“彼”は優しく微笑んで頷いた







アリアが“彼”に手を引かれて帰って来た

頭に乗った花の冠がとても似合っていて、お姫様みたいだったのを今でも覚えてる







14才の時だった

“彼”の赤い瞳を見た

悲しそうな瞳

身体を抑えて苦しむ姿

“彼”の正体を知った


「大丈夫、」


泣いている僕を見て
苦しそうに彼は微笑んだ

優しくて強い“彼”

僕は“彼”も家族もみんな守れる強い男になると決めた

絶対に泣かないと決めた




18才の時

母が息を引き取った


「“母さん”ありがとう」


“彼”が悲しそうに微笑んで母の手をとった

近いうちに母の命が終わることを僕は覚悟していた

だから強くなろうと
泣いている家族を支えようと
涙は見せなかった


「なぜ龍真は泣かないの?」


アリアが泣きながら訪ねてきた

僕はなにも言わずに彼女を抱きしめた

彼女と喧嘩する日々はずっと前になくなっていた





翌年
アラナミ防衛軍 空軍の父が事故で亡くなった

僕が“金城”を継ぐことになった

泣いている暇などないと僕は必死に勉強した


早く僕が家族、大切な人を守らなければならないから







「龍真、一人で背負い込むことはないよ」


ある日、彼が言った

僕はいつの間にか“彼”の身長を越していて、彼より大人になっていた

“彼”は僕が幼い日のままの少年だった


「支えてくれる人、いるんじゃないか?」


ずっと勉強に追われる日々

支えてくれる人?
わからなかった

すると“彼”は微笑んだ


「アリア、」


言われて気づいた

大切な人………


アリアがずっと特別で、“彼”しか見ていないアリアが歯がゆくて……、


はじめて“彼”を超えたいと思った







24才の時


「君を、“家族”を幸せにしたい。」


僕がアラナミ協会の状勢管理課に勤めるようになった年のアリアの誕生日


「僕と一緒に“家族”を守ってくれないか」


僕はアリアの薬指に指輪を通した

彼女は迷いなく頷いてくれた


少年のままの“彼”は僕たちを誰よりも祝福してくれた




“彼”が僕を“父さん”と呼ぶようになった

子供がたくさんできた

どの子供とも血は繋がっていない

僕とアリアの間に子供は出来ないと言われた


「僕に何かあったら“金城”を継いでくれないか?」



と申し出た僕に“彼”は
“それはできないよ”と
悲しそうに首を横に振った

僕は言ってはいけないことを言ってしまったと後悔した














僕が家族のもとへ行くと泣き崩れたアリアと大泣きする子供たちがいた

“彼”の姿はなかった

“彼”が戦争へ行ってしまったと翔太が泣きながら言った

優しい“彼”を奪った世界
僕は悔しさに涙をこぼした



「毬夜、」



アリアが泣きながら名を呼んだ

僕は“彼”を超えられない

とある少女の話


私は生まれてすぐ両親を無くした
名もわからない私を遠い国のとある家が引き取った

そこには私と同じ親のいない子供がたくさんいて


“彼”がいた



「アリア、」


金色の花が咲く、丘
泣いていた私の頭を“彼”が優しく撫でた


“アリア”と言う名は“彼”が付けてくれたのだと10才の時に知った

どこかの国の神様の名前



「アリア、」


しゃがみ込んでいた私の隣に“彼”が座った


「龍真はいつも私をいじめるの」



龍真はいつも私をいじめる
言い返しても、やり返しても
私は負けて、この丘で一人泣いた

そうすると“彼”が来てくれた


「龍真は今辛いんだよ」


私を引き取った家

“金城”

龍真はその家で唯一血の繋がった金城の子だった

私の“母親”であり
“龍真の母親”は病気でずっと寝たきりだった



「きらい…龍真なんてきらい…」


私をいじめる龍真も
本当の両親のいる龍真も

きらい

きらい

大きらい


「…お兄ちゃんは龍真の味方をするの?」


私は顔を上げて“彼”の横顔を見た

そうすると“彼”は困ったように笑った


「俺は、いい子の味方だよ」


金色の花を一輪摘んで笑った


「アリアも龍真も大好きだよ」

優しい微笑み
私の涙を拭ってくれた

金色の花と白いお花を組み合わせてお花の王冠を作って私に被せた


「帰ろうか泣き虫お姫様」


そう言って私に手を差し出す
私はその手を取った


「私、私もお兄ちゃんのこと大好きだよ!」


私よりずっと背の高い“彼”を見上げる

泣いていたことなんて忘れたくらい笑った


「私ね。お兄ちゃんのお嫁さんになりたい!」



私は“彼”が大好きだった

誰よりも

誰よりも



「ありがとう」



“彼”は照れたように、でもどこか寂しそうに笑った





帰って来た私を見て龍真が

「ごめん」

と小さくつぶやいた












私が16才の時
龍真の、私の母親が息を引き取った


「“母さん”ありがとう」


あの丘で泣いていた私を迎えに来てくれた時と“変わらない少年のままの彼”が母に悲しそうな笑み浮かべて手を握った

私たちは泣いた

でも“彼”も龍真も泣かなかった


「なぜ龍真は泣かないの?」


そう言った私を龍真は優しく抱きしめた

あたたかった


龍真が私をいじめることはずっと前になくなっていた




その翌年

空軍の龍真の、私たちの父親が事故で亡くなった


私たちはまた泣いた

でもやっぱり“彼”も龍真も泣かなかった



龍真が“金城”を継ぐことになった

毎日勉強する龍真の背中を私たちは見ていた


その背中を誇らしく感じた





18才の時

“彼”の赤い瞳をはじめて見た

悲しそうな瞳

身体を抑えて苦しむ姿


私は大好きな“彼”を守りたいと思った







「龍真の背中…私好きだな」


とある日私はポロリとそう“彼”にこぼした

ほとんどの兄弟たちは一人立ちしていって、
金城の家には私と龍真と妹と弟、そして“彼”だけになっていた


「今はきらいじゃないの」


私は笑った

きらいだった龍真

今は誇らしいと思う



「アリア、龍真を支えてあげてくれないか」


“彼”は優しい笑みを浮かべた

龍真となら“彼”を守れる





22才になった日


「君を、“家族”を幸せにしたい。」


ずっと大人になった龍真が真面目な瞳で、声で私に言った


「僕と一緒に“家族”を守ってくれないか」


私の薬指に指輪を通した

私は頷いた


“守りたい”

“彼”を守りたかった


あの時と変わらない少年のままの“彼”は私たちのことを祝福してくれた


幼い日の夢は実現できないとずっと前に知っていたから、私は龍真の手を取った

“彼”がある日言ったように私は龍真を支える存在になった




龍真と結婚して数年

たくさんの子供ができた

一人も血は繋がっていない

でも愛しい子供たち


私たちの間に血の繋がった子供を作ることは出来ないと医者に言われた



一人泣いた私を“彼”はあの幼い時のように優しく頭を撫でてくれた







“彼”が私のことを

「母さん」

と呼ぶようになった

“彼”は変わらない
ずっと少年のまま


でも日に日にその心が冷めていくことに私は気づいた

だから私は“彼”を抱きしめた







「“アリア”、みんな、ありがとう」


彼は私に背を向けた

“彼”が行ってしまう

ずっと守ってきた“彼”

泣き崩れた私


ずっと幼い日が蘇る

私は泣き虫のままだった



行かないで
行かないで


私の愛しい人




「毬夜…、」

荒野

大きな無機質のつぼみのある荒野に、少年と少女がいた



「これはなに?」

少女が手のひらの小さな種をじっと見つめて指差した

「これはマリーゴールドの種だよ」

少年は笑みを浮かべて
手のひらの“マリーゴールドの種”を指で優しくつついた

「種?マリーゴールドってこれのことじゃないの?」

少女は顔を上げて立ち上がって
無機質の物体を指差した

「そうだね。でもこれは花の種だよ」

少年も立ち上がって無機質のつぼみに視線を向けた



大きな無機質のつぼみ

“マリーゴールド”


それはこの国の象徴であり
一つの歴史の終わり



「花?どんなお花?」

少女はきょとんとした表情で少年を見上げた

「金色の綺麗な花だよ」

少年はつぼみを見つめたまま微笑んだ

「へえ〜見てみたいな」

少女が満面の笑みを浮かべた

少年は少女の頭を優しく撫でた後
荒野に腰を下ろし、小さな穴を掘ると種を植えた

土のついた手を軽く払う


「帰ろうか、マリー」


少し土で汚れた手をマリーに差し出すとマリーは笑顔で頷いてその手を取った


「また来るよ“マリー”」



少年は一瞬振り返って荒野に立つつぼみに向けてつぶやいた
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