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第十三話 unlike

うっすらと意識が戻っていく
血の匂いが気持ち悪かった


「なぜ民間人が戦場にいた!?」


男が声を張り上げるのが聞こえた


「わかりません!ただ“赤い髪に赤い目のこの子供が戦っていた”と別の兵が…!」

「その“赤い髪に赤い目の子供”がこの少年なのか?」


男の声に若い男が困惑したように声を上げる
先ほど声を張り上げた男が低い声で問う


戸惑うだろう
赤いはずの子供の髪は黒い髪をしていたから



ゆっくり目を開く

明かりに目を細めた


「この血は?」

「怪我ではないようです」

「すべて返り血だって言うのか?」


会話を聞きながら、まだ覚醒しない頭と目で周りを観察した

簡易のテントだとなんとなくわかった


「衛生兵を呼びますか?」


若い男が訪ねた


「……必要ない」


毬夜はゆっくり身体を起こした
若いアラナミ防衛軍の兵士と無精髭を囃し精悍な顔つきをした同じくアラナミ防衛軍の兵士が居た

二人とも土埃で頭から軍服まで真っ黒だった


「だっ大丈夫なのか!?」


突然起き上がった毬夜を見て若い兵士の声が驚きで上擦った


「怪我はしてない。」


毬夜は淡々と答える
若い兵士は驚いていたが無精髭の兵士は黙って毬夜を観察している


「なぜ民間人が戦場にいた?」
「………」


無精髭の兵士が口を開いた
毬夜が押し黙る


「私たちが派遣したのですよ。ジャック・クニヨシ大佐」


若い男の声が簡易のテントに響いた
二人の兵士が振り返って、毬夜はその声の主を睨んだ


「月島…」


若い眼鏡の男がテントの入り口に立っている
低い声で毬夜が唸る


「何者だ」


無精髭の兵士 ジャック・クニヨシ大佐が、月島文殊に険しい顔を向けた



「研究員ですよ。“聖石プロジェクト”の」


文殊が薄く笑って眼鏡をあげた


「聖石プロジェクト?」


知らない言葉にジャックの表情が一層険しくなった


「簡単に言うと“強化人間”を作り出す研究ですよ」

「強化人間!?」


文殊がさらっと言いのけると若い兵士が驚きの声を上げたが
ジャックは表情を変えない


「この子供が“強化人間”だって言うのか?」


そうですと文殊が答えた

ジャックは文殊から視線を毬夜に向けた

“返り血で赤黒く染まったシャツと身体についた乾いた血”

少年は眼鏡の男を睨んでいた


「馬鹿な…非人道的だ…そんな研究をアラナミが行っていた…と?」


ジャックが文殊に鋭い視線を向けた
文殊は眼鏡の瞳を細めて、ふと笑った


「非人道的?アラナミの“軍事強化”に力を貸した貴方が言うのか?」


文殊を睨んでいた毬夜は目を見開いてジャックを見た

ジャックは表情を変えない


「…アラナミ…の“軍事強化”…」


自分の前に現れた“強化人間”のマリー

大国 ビット軍を一時間で撃退したアラナミの想像以上の戦力

アラナミが軍事強化を行っていると


わかりきっていたことだった



「あぁ。確かに俺は軍事強化に力を貸した。だが“聖石プロジェクト”の“強化人間”なんて聞いた覚えがないな」


ジャックは否定せず、言い返した

文殊は浮かべた笑いを消さない


「だが見たはずだ、“戦場をかける銀髪の少女”」

「………!」


はっとジャックの脳裏によぎった

銃弾の中を舞う銀

スコープ越しに見た金


「理解いただけましたか?」


文殊は人差し指で眼鏡を上げた

毬夜もジャックも若い兵士も黙ったままだった



「この“兵器”、“試作品第一号”はあなたの第6部隊に預けます。好きに使って下さいクニヨシ大佐」


そう言って文殊は簡易テントを出ていった


沈黙





「お前、名前は?」


その沈黙を破ったのはジャックの低い声だった

ジャックは真っ直ぐ毬夜を見た


「…金城…毬夜…」


ジャックの視線に気圧されて小さな声で毬夜が名乗る


「毬夜、アラナミ防衛軍第6部隊に歓迎する」
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