静かに降り続く雨は消えることはない。流れて、流れて、どこかに、たどり着くのだろう。ぼくはその行く先を知っているのだろうか。目で追えない水の粒子がただただ過ぎ去っていく。ぼんやりと考えていたけれど、唐突にどうでもよくなって、ぼくは思考をやめた。
雨はもう二日続いている。分厚く空を覆う雲は現実感を遠のかせる。昼と夜の境界が曖昧になる。雲の上では普段と同じように、太陽は昇って、沈んでいるのだろう。
「なにしてんの」
「別に。何も」
「それじゃ、俺とおしゃべりしようぜ」
「まず誘い方が気持ち悪い」
えーそんなことないよ、などと訴えかけてくるヒロを無視して、ぼくは時計を眺めた。放課後の教室には人もまばらで、意味もなく座っているのは、ぼくと、目の前のこいつくらいなものだった。誰もが、何かしらの本を広げていたり、電話をしていたり、どこか忙しそうだった。ぼくはどうしてここにいるんだろうか。
「あ、あの」
思考に没入しかけていた意識が一気に引き戻される。誰だ、問おうとして、視線を動かせば、制服のスカートが目に入る。女子は適当にあしらうと色々面倒だ。とりあえず話くらいは聞こう。思って、声の主の顔を見上げる。少し見上げなければいけないくらい背が高い。確か名前は……
「浦さん、だっけ。何か用?」
ぼくが問えば、浦さんは少し驚いた顔をして、それから思い出した様に言う。
「うん、あの、ちょっと、数学教えて欲しくて」
そう言って数学の問題集を持ち上げて見せる。そういうことなら他の人に頼んだほうがいい、面倒なのでそうかわそうとするも、何やらにやにやしているヒロが口を挟んできた。
「もちろんいいよー。こいつ頭いいだけが取り柄だからさー」
「だけとはなんだ」
ヒロの軽口に反応したせいで断るタイミングを失ったことに気づく。正面を見れば、にやにやしながらウインクしてくる野郎がひとり。何を助けた気でいるのか、余計なお世話である。浦さんはといえば、何やら楽しそうにぼくらのことを見ている。ぼくは小さくため息をつく。
「わかんないのって、どの問題?」
「あ、うん。これ、なんだけど」
差し出された問題の説明をしながら、面倒なことになりそうだ、とぼんやり思った。
○
「なるほど、そうなるんだ」
相槌を打ちながら、内心気が気ではなかった。示してくれる解法は全く頭に入ってこない。この数学の問題は、話しかけるきっかけでしかなかったのだけれど、それでも、丁寧に説明してくれる中岡くんに、少し罪悪感を覚えた。さっき、名前を呼ばれた時から、胸の鼓動が治まらない。
「この手の問題なら、大体同じ手法で解けるから何問かやれば大丈夫だと思うよ」
「あ、うん、ありがとう」
言って、そのまま席を離れるところをその場にとどまる。中岡くんが不思議そうに私を見た。
「あの、ちょっと聞きたいんだけど」
「なに?」
ここまで言ってしまったのだ。覚悟を決めて息を吸う。
「ふたりは、付き合ってるの?」
「……は?」
○
「やだなあ浦さんったら」
なんでこいつは笑ってるんだ。ぼくたちは今あれだぞ、妄想の餌食になろうとしているんだぞ。伝えようにもヒロはにやにやしたままぼくを見ようともしない。とんでもない爆弾を投下してくれたものだ。
「そんな事実はないから」
「そ、そうだよね……ごめん。忘れて!」
そう言って浦さんは去っていった。普通の人だと思っていたが実は頭の中は腐ってるんじゃないだろうか。
なんだかどっと疲れた。ヒロを見れば、何やら不満そうな表情を浮かべている。
「そうなの……? 俺たちって、付き合ってないの?」
「何故お前までわけのわからないことを言っている」
「だって、こないだそういう話しなかったっけ?」
そんな馬鹿な話をしてたまるか。ぼくはノーマルだ馬鹿野郎。
おわり。
○
なんか当初書きたかったものとは別のものになってしまった気がするけれど、たぶんそれは眠気のせいだろうと適当に理由づけてぼくは眠りにつこうと思います。何せ眠いのです。眠い眠い。みなさんおはようございますこんにちはこんばんはおやすみなさい。霧島でした。