なんとなく買った新しい石鹸の香りに
忘れていた記憶が呼び醒まされる。

貴方がいつも纏っていたカモミールの匂い。

叶えるつもりもない淡い感情だったから
ただ一緒に笑えるだけで満足していた。

だけど時々貴方の匂いが体に残ると
いつまでも抱き締められているようで
どうにかしてしまいたくもなった。

そんなとき貴方はいつも笑って
「知ってるよ」とだけ言って
私に近付こうとはしなかったね。

叶うはずもないものだったから
笑いかけてくれるだけで良かったの。


ふんわりと泡立てた石鹸を
両手ですくって顔を洗う。

水でさっぱりと流したあとも
かすかに香るよく似た匂いを感じながら
私は鏡に向かって笑いかけた。