まんなかです。
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それはファンタジー。 【※閲覧パスはプロフを参照!】
まんなかです。
With
―Hommage to Yuka.M & The Wizard of Oz
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←西のほうの駅←
東のほうの駅
→最終の行く先→
ゆかとかなとマユとなつきは東のほうの駅に着いた。
ハイパーワープゲートの出口をおりると、出迎えがあった。
ショッキングピンクのマントに
ネームプレートをつけた人が立っていた。
東のほうの魔女
さとうあみな
「ひめ。ようこそおいでなさいました」
とんでもない長旅だった。
ぼんやりとして思い出せない濃密な夢から醒めたような気分だ。
「アキハバラってここから近いですか?」
東のほうの魔女に、かながたずねた。
そうだ。ドンキホーテを目指すんだ。
すっかり忘れるところだった。
東のほうの魔女は答えた。
「すぐちかくです。ここから北へ、2つ目の駅です。
ドンキホーテは他の何よりも高くそびえています。
2つの塔がみえるので、間違いなくわかるでしよう。
アキハバラの駅舎を出ると大通りにつきあたります。そこから右手にまっすぐ行けば、ドンキホーテはすぐそこです。あ、そうだ」
あまりにも軽い調子で、東のほうの魔女はこそこそと物をとりだした。
「ひめ。これをお履きください。あなたを守ってくれるものです」
羽の生えた白いスニーカーだった。
「魔女やのにキラキラーって魔法使わへんねんな」
「うるせえよ」
ゆかはすりきれて穴のあいた靴をぬぎ、羽の生えた白いスニーカーを履いた。
アキハバラは電気街として栄えた街だった。
他に例をみない趣都(しゅと)として発展した。
ゆかとかなとマユとなつきは、
アキハバラの駅をあとにし、大通りに出た。
空はどんよりとして、灰色の雲がたれこめている。
強いビル風が吹くと、埃が舞い上がって
前が見えないほどに薄暗くなった。
巨大な怪獣が、交差点に立ちふさがっていた。
巨大な怪獣は、両手をふりまわす。
鋭く巨大な爪が、ひとまわり小さい怪獣に刺さり、
もう片方の手の爪は、背後にいた他の怪獣をえぐった。
息絶えた怪獣たちは、さらさらと溶けて、砂になった。
「砂…?」
ゆかはしゃがんで、脚元の砂を手にとった。
アスファルトの道を覆い隠すように、街中に砂が散乱している。
巨大な怪獣のギロリとした瞳孔が、ゆかをとらえた。
さびしそうな、飢えた目をだった。。
かなはどうしたらいいのか本を頼り、
マユはその場で動かなくなり、
なつきは泣き出してしまった。
巨大な怪獣の爪はなんども空を切り、
それをかわしながら、ゆかは逃げた。
かなとマユとなつきもその後について逃げた。
ドスドスと地響きがして、砂が舞う。
次の十字路がみえてきたところで、ゆかは振り返った。
巨大な怪獣が、突然止まった。
ゆかの目の前に、白いマントをまとったひとりの女性が立っていた。
巨大な怪獣にむかって、手を突き出している。
静止した怪獣はキラキラと輝きながら溶けて、巨大な砂の山を作った。
最後に、固く重たいものが、砂の山の上に落ちた。
そのなにかを、白いマントの女性はひろいあげた。
「危なかった。ちょうど、保安省から怪獣警報が出たので、様子をみようと外に出たところでした」
彼女の白いマントは神々しく、
ふわふわに巻かれた髪に、ものすごいたれ目だった。
ゆかはたずねた。
「あなたは?」
「シアターのめが〜みです」
女神(めが〜み)は、ゆかとかなとマユとなつきをシアターへ案内した。
ドンキホーテは、他のどのビルよりも高く、天までそびえたっていた。
2つの塔が建ち、片方には夢の鐘がつるされていて、もう片方は神殿のようになっている。
シアターはドンキホーテの地上8階にあった。
歴代戦士の写真が飾られた細い廊下を抜けると、ロビーがあり、木製のドアが待っていた。
「ドンキホーテは8階建てですが、もっともっと上の階があります。
あなたはそれを見つけださなければいけません。上に続く階段が、必ずどこかにあります。
険しい道のりでしょう。失うものもあるでしょう。それでも上を目指しなさい。
そして、時の砂をうごかし、孤独を浄化するのです」
「“孤独”?“時の砂”?」
「神のお告げの声を聞いて立ちあがった、あなたはジャンヌ・ダルクと同じなのです」
誰かがゆかを呼んだんだ。世界のどこかで。
…にゃもしさんだったんだけど。
「アキハバラの現状は、先ほど見ましたね」
ゆかはうなずいた。
「アキハバラは怪獣たちのせいで砂漠化しています。
孤独と疑心に満ち、互いを殺し合った怪獣たちの屍が、砂になっていくのです。
世界に散乱した砂を、鎮めてあげなければなりません。
この歪んだ世界を浄化できるのは、あなただけです」
ただ、歌を歌いたい、それだけのはずだったのに
なんでこんな意味不明なド偉い問題に巻き込まれてしまったんだろう。
「あなたは絶対に譲れない大切なモノをもっていますね。
怪獣も同じです。
どんなに恐ろしい怪獣でも、砂になって消えていく時、大切ななにかを残します。
それが、心の中に大切なモノを1つでも持っていた証です。
これはあなた達を襲った怪獣が残したモノです。差し上げます」
女神はゆかに怪獣が残したモノを渡した。
柄しかない、刃のない剣だった。
「こんなん何に使うん…?」
ジャンヌ・ダルクならこういう時、
なんでも切れる剣とか、なにからでも守ってくれる盾とか、
そういうものを女神からもらうと思うんだけど。
「使えそうにないものでも、いつか必ず役に立ちます。
ここから先は危険がともないます。命を賭けるのです。
そうでなければあなたは声を失ってしまいます」
「待って待って。意味わからん。
こんなことするために来たんちゃう。誰がやったってええやん」
にゃもしさんだってそう言ってた。ゆかは歌手になるって。
「誰だってよくはありません。
まだ見ぬ先に夢を持てる人でなければ、時の砂を動かすことはできません」
ここまで来れたのも、にゃもしさんやよくわからない魔女たちのおかげだし、
さっきの巨大な怪獣だって、わけのわからないままに女神が助けてくれた。
刃のない剣は、あまりにも無力だし、
羽が生えたスニーカーなら逃げられるかもしれないけど、戦えない。
私はこの手でなにをした…?
「ひとりやったら何もできひん…」
「なにいってんの?」
ゆかは隣を見た。
「ゆかが助けてくれた」
「ゆかガ、ねじをまイてクレルので、うごくことが、でキマす」
「ゆかが旅に出なかったら、私はいつまでもあの場所で夢をみることしかできなかった。
ゆかが使命を果たすなら、ついていくよ」
なつきがそう言うと、かなとマユもうなずいた。
女神は言った。
「過酷な道のりです。
どれだけの失望と涙を引き換えにするかわかりません。それでもよいのですね?」
「はい」
「はイ」
「はい」
「…はい」
一番気持ちが追いついていなかったのは、ゆかだった。
意味はわからないのに、もう後にひくことができない。進むことしかできない。
「ゆか、にゃもしさんがどこにいるかわかりますか?
にゃもしさんは、あなた自身です。
ゆかはゆかに従ってここまで来た、それだけのことです。
人と出会い、みえない道を切り開いているのです。
困難があってもひとりではありません。大丈夫です。
彼女に、ご加護を 」
女神の言葉に背中を押されるように、ゆかはシアターの扉を開いた。
濃い緑の壁と照明機材の黒い天井。
シアターの薄暗がりに、客席が広がっている。
大きな柱が2本あり、その向こうには銀のふちのセリがあるステージ。
「どっかに階段があるってゆっとったな」
ゆかとかなとなつきは、劇場内を歩き回る。
マユは客席の間へ入っていって、柱の横で立ち止まった。
「ワたしは、うそガきらいデス。ホントウの人間に、なレませン」
「ちょ、バカ……!」
かなが止めに入ったけど、遅かった。
パリーーーーーン
「あちゃー…」
柱に貼られた鏡に、クモの巣状のヒビが入った。
マユはこぶしを抜いた。まんなかにぽっかりと大きな穴があいた。
「ウソのナカミは、カラッぽでス」
「からっぽ?」
なつきは割れた鏡をのぞきこんだ。
建物を支えているはずの柱の中は、空洞になっていた。
さらにのぞくと、暗がりの中にギザギザした形が見えた。
「階段だ…!」
砕けた鏡をきれいにとりのぞいた。
柱の中の暗く細長い空間には、のぼり階段が続いていた。
マユの背中を押して、なつきは階段をのぼっていった。
かなは床に散った鏡の破片をみて言った。
「痛そう。これで戦えそうだね」
ゆかは砕け落ちた鏡から、大きな破片をひとつ拾った。
それを、刃のない剣にさした。
ぴたりとはまって、鏡のナイフになった。
階段を上がると、石畳の部屋に出た。
薄暗さを増し、左右の壁にろうそくの火が灯っている。
混沌としていて、武装した兵士が狭い通路をばたばたと行ったり来たりした。
「黒い影が侵入した!皆の者!出陣!」
「「おーーー!!」」
3人の兵士が、声を荒げていた。
けど、その立ち振る舞いはコミカルで、とても兵士には見えない。
「おぬしは?」
仕切っていたリーダーの兵士が立ち止まって、ゆかに声をかけた。
「ウワサには聞いていたが、まさか女神さまの遣いで…?」
ゆかがうなずくと、リーダーの兵士はゆかに抱きついた。
「おおお!!姫!!!なんたる光栄!今日はすばらしい日だ!!
私はようへい隊長のアキモトです。こいつらはウメダとミヤザワです。こちらへおいでください」
アキモトに連れられて、ゆかとかなとマユとなつきは大きな扉の前にきた。
大きな一枚岩のまんなかに、文字がほられている。
― 姫のすべて ―
文の下には、くぼんだ穴が横に2つ並んでいる。
足元には、ひらがなが刻まれた石が無数に転がっている。
「この扉の謎をじっくり考えたいですが、我々にはそんな能もないですし、
なにより今は緊急事態。黒い影が侵入したので、護衛にあたらねばなりません」
「黒い影?」
「そうです。この世界を支配する、孤独の影です。
いつ生まれて、どこからやってくるのかもわかりません。
どんな希望も光も、無力のなかに吸いこんでしまう、死神みたいなもんです。
ここは神聖な場所です。平凡を、平生を守ることが、我々の任務です」
アキモトは難しい言葉を並べた。
― 姫のすべて ―
かなとマユとなつきは、一枚岩の扉がかかげる問題に挑んでいた。
「この石を穴にはめればいいんじゃない?」
「でも、たくサンアりまス」
「なぞなぞを解けばいいんでしょ?2文字ってことかな」
かなとマユとなつきは考える。
「か」「ぎ」 ―「こういうことでしょ?」
「む」「り」 ―「ヒラきマセん」
「あ」「い」 ―「こんな哲学的じゃダメか」
かなの単純すぎる答えでも、
マユの投げやりすぎる答えでも、
なつきの考えすぎた答えでも
扉は開いてくれない。
「あーもう。私バカだから。全然わからない。
家の中にいるときは、料理も家事もなんだって出来たのに。
外に出なければよかったかな」
「何もやらんより、ずっとええよ」
どれどれ、と、ゆかも謎解きの輪に入る。
「姫のことは、姫が一番わかっておられるはずです」
「素直にお考えください」
ウメダとミヤザワが口を挟む。
「私の、すべて…」
きっと、宿命のパスワードは解読不能なんかじゃないはずだ。
なつきが命題をかかげる。
「ゆかと言えば、何だ」
ゆかはピンときた言葉を口にしてみる。
おんがく、
こえ、、、、
「う」「た」
石をひろいあげて、2つの穴にはめた。
小きざみな震動とともに、一枚岩の大きな扉がずりずりと横にスライドしていった。
「「「開いた!」」」
薄暗い奥まった空間に、のぼり階段が現れた。
ゆかは階段をのぼっていく。
かなが敷居をまたいだ その時、
突然、一枚岩の扉が閉まりかけた。
かなはとっさに両腕をつっぱっておさえた。
「早くとおって!……なんで閉まんだよぉ…!!」
腕と脚のあいだをくぐりぬけて、マユとなつきが通った。
かなは歯を食いしばって耐える。
かなの体を扉の間からいっきに離そうと、ゆかはかなの体を支えた。
部屋の内側から、アキモトとウメダとミヤザワも、それを手伝った。
暗いなにかが、かなの体をすりぬけて、消えた。
顔色をかえて脱力した。
かなが倒れた。
支えを失った一枚岩の扉が、大きなにぶい音を立てて閉まった。
「黒い影だ!」
アキモトが叫んだ。
かなは消えてしまった。
カランコロンと乾いた密度のある音がした。
砂になり、かかしの手足のような3本の木の棒が残った。
失望と涙をひきかえにするというのは、こういうことなのか。
扉はもう閉まっていて、階段の上に立っていて、その先には部屋への入り口がある。
先へ進むしかなかった。
ゆかとマユとなつきが階段をのぼっていくと、静かな間に出た。
下の階の乱闘騒ぎがウソのように、静寂が聞こえた。
「ア!」
マユの歩みが急に速くなった。
部屋の真ん中には、石を積み重ねた階段。
中間の段の上に、人がふたり、天井を支える柱のように立っている。
「わたシの、なかまデス」
マユユはふたりを交互にながめた。
首に小さな文字が刻印されていた。
片方には「ユキ」、片方には「リエ」と名前がある。
「ネジがとまッテます。うゴカしてアゲナくては」
ユキは背中に、リエは右のわき腹に穴が開いていた。
「わたシのネジをツカイまショう。わたしのネジをぬいてクダサい」
「でもそんなことしたらマユ、」
「ピノキオはやさしいかたです。
人間になりたいケド、ほうってオケません。わたしのネジをまいてください。
ソシて、ネジをぬイて、ワタシにくダさい。
ユキとリエのネジはわたしガマキます」
「マユはどうするん?また動けんくなるで?」
「だいじょうぶデス。
ユキとリエがうごきだしたら、こうたいで、おたがいのねじをマイてアげまス。
だから、だいじょうぶデス」
ゆかにマユをとめることはできなかった。
なつきが天井を指差した。
「ほらみて、この上。ふたりが支えてる天井、溝がある。動くかもしれない」
ジリジリジリかしゃっ
ジリジリジリかしゃっ
ジリジリジリかしゃっ
ジリジリジリかしゃっ
ゆかは、マユのねじをしっかり、しっかり巻いた。
ねじまきをひっこ抜いて、マユの手に渡した。
「あリガとう」
マユは、ユキとリエの背中のねじを順番に巻いてあげた。
ユキとリエはギリギリと音をたてながら動きだし、ゆっくりと階段をおりはじめた。
1段また1段とおりるたびに、支えていた天井がななめに傾き始めた。
やがて手を離すと、大きな隠し階段が登場した。
「ゆか、マッて。キエてシマうまえに」
マユがねじまきの双葉に力を込めると、大きな穴が2つ空いた。
ねじまきは綺麗な円に切り抜かれ、厚手のまるい鉄板が2枚、床に落ちた。
「もラッテくだサい。おレイです」
まるい鉄板2枚をひろいあげて、マユはゆかに手渡した。
ユキはマユの手を握り、リエはマユの頭を撫でた。
マユはほほえんだ。
「あリがトウ、ありがとう」
マユは何度もお礼を言った。
ゆかとなつきは階段をあがっていった。
ふたりの姿がみえなくなった頃、
ねじまきがさらさらと砂に変わった。
一緒ならこわくはなかった。
だから、だいじょうぶ だった。
マユとユキとリエは、時を待った。
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