02. 門
2018-4-14 23:00
明日のかけら 02
目を開けているのに何も見えない。
どこだ?ここ。真っ暗。劇場にいたはずなのに。
いろいろ思い出してきた。柱の鏡が割れていて、のぞきこんだら中に落っこちた。何も見えない真っ暗闇を「うわあああああ」って。
結構長く落ちてたはずなんだけど、不思議とその感じがしない。身体はぶつけてないみたいで痛みもない。
少しずつ記憶をたどっていくと、身体の輪郭が浮かび上がってきて、あたりが明るくなった。
見上げると、頭の真上の高いところでライトみたいなものがぼんやりと光るのを見つけた。その光が彩希を照らし出していた。
あれはなんだろう?光の穴のように見える。雲に隠れた月にも似てるけど、それにしては無機質でどこか冷たい。
見まわしても、自分がいる以外の他のところは真っ暗。
闇を固めてワックスを塗ったように黒い床を除いたら何もない。壁も見当たらない。
光の穴がある場所はとにかく高く、天井らしき天井がきちんとそこにあるのかもわからないくらい。
あれが劇場の灯りだとしたら、ここはドンキの地下かな?
そうだよ、どうしよう。公演出れないじゃん。
今何時かわからないけど、もうそろそろみんな円陣するんで集まってる頃かもしれない。探されてるんじゃないかな私。
ポジション空いちゃうよ。どうしよう。
泣きたくなってきた。これからどうしたらいいのかがわからない。
さっきのクマが居てくれるだけでも、話し相手がいてよかったのに。はぁ。
ため息をして視線を落とす途中でひやりとした風が吹くと、視界の端に何かが入った。
巨大な塊にしか見えない何かに、見られているような気がした。
見まわしても、自分がいる以外の他のところは真っ暗。
闇を固めてワックスを塗ったように黒い床を除いたら何もない。壁も見当たらない。
光の穴がある場所はとにかく高く、天井らしき天井がきちんとそこにあるのかもわからないくらい。
あれが劇場の灯りだとしたら、ここはドンキの地下かな?
そうだよ、どうしよう。公演出れないじゃん。
今何時かわからないけど、もうそろそろみんな円陣するんで集まってる頃かもしれない。探されてるんじゃないかな私。
ポジション空いちゃうよ。どうしよう。
泣きたくなってきた。これからどうしたらいいのかがわからない。
さっきのクマが居てくれるだけでも、話し相手がいてよかったのに。はぁ。
ため息をして視線を落とす途中でひやりとした風が吹くと、視界の端に何かが入った。
巨大な塊にしか見えない何かに、見られているような気がした。
おそるおそる顔を上げる。
この暗闇の世界で彩希と同じように光に照らしだされた巨大な何かが、すぐ目の前に佇んでいる。
青いような黒いような、明るい街で見る夜空みたいな色はブロンズ。
表面はつるりとして、固そうだけど岩じゃない。浴びた光を鈍く反射する。
その肌からつまみ出された海や樹の葉っぱのようなものがゴツゴツと波打っていて、沼を這い上がったり沈んだりするみたいに小さな人らしき形が彫刻されている。
絶望的なくらい硬くて動かない、巨大なブロンズの塊。
あまりの不気味さで目を奪われていると、風にのって1枚の紙が舞った。
紙は葉のように床の上に滑りおちると、彩希のつま先にあたった。
薄くてぺらぺらのはずの紙は、ブーツの先に存在感のある振動をコツンと与えた。
彩希はぽっかり空いた四角い白い穴のように見えるそれを、しばらく見降ろしてから拾い上げた。それはきちんとした紙だった。
表面はつるりとして、固そうだけど岩じゃない。浴びた光を鈍く反射する。
その肌からつまみ出された海や樹の葉っぱのようなものがゴツゴツと波打っていて、沼を這い上がったり沈んだりするみたいに小さな人らしき形が彫刻されている。
絶望的なくらい硬くて動かない、巨大なブロンズの塊。
あまりの不気味さで目を奪われていると、風にのって1枚の紙が舞った。
紙は葉のように床の上に滑りおちると、彩希のつま先にあたった。
薄くてぺらぺらのはずの紙は、ブーツの先に存在感のある振動をコツンと与えた。
彩希はぽっかり空いた四角い白い穴のように見えるそれを、しばらく見降ろしてから拾い上げた。それはきちんとした紙だった。
片方の面に一文だけ書いてある。
ー この門をくぐる者は、すべての望みを捨てよ ー
なにこれ、怖い。
塊をよく見ると、四角い板チョコみたいなパーツが縦向きに2つ並んでいて、ノブのようなリングがついている。
この塊は門なの?
問いかけるようにもう一度細かいところまで見直す。近づいたら吸い込まれて消えてしまいそうなくらいの恐れるべきものとして、彩希の目に映った。
問いかけるようにもう一度細かいところまで見直す。近づいたら吸い込まれて消えてしまいそうなくらいの恐れるべきものとして、彩希の目に映った。
この場所で吹いている風は、陽を浴びることができないせいで致命的にひやりと湿っていて、不安に拍車をかける。
後ずさりすると、もといた明るい光の下にいた。無音。
後ずさりすると、もといた明るい光の下にいた。無音。
何か変わっていないかなと、足元に散った紙をもう一度見る。
ー この門をくぐる者は、すべての望みを捨てよ ー
すべての望みって何だろう。彩希は考える。
私が望んでいることって何があるだろう。
公演出たいな。とにかく劇場に戻りたい。…でも、捨てなきゃいけないの?私の唯一の望み。
ー この門をくぐる者は、すべての望みを捨てよ ー
すべての望みって何だろう。彩希は考える。
私が望んでいることって何があるだろう。
公演出たいな。とにかく劇場に戻りたい。…でも、捨てなきゃいけないの?私の唯一の望み。
何も見当たらないこの場所で、彩希は楽屋に戻れそうな手がかりを探した。
エレベーターとか、階段とか、ドアとか。壁を見つけたらきっと、穴とかのぼれそうなところとか、何かあるはず。
洞窟じゃないかもしれないけど、きっとなにか、
なにか……
何もない。
あまりに何も見つからなくて、もう近づきたくなかったはずの門のほうに駆け戻る。
今の私には本当に、あれしかない。
怖い。けど、ここにいても仕方がない。
この門は意地悪じゃなくて、どこかに繋がっているのかもしれない。劇場に帰れる方法が見つかるかもしれないし、迷い続けてるよりはいいかもしれない。ここには何もない。
コツコツとブーツが音を立てる。そのたびに床は、雨粒で土埃が洗われていくみたいにぼんやりと白と黒の市松模様を浮かび上がらせた。
門の前に立ち、彩希はきつく目を閉じた。
塊に吸い寄せられるように掌を扉につく。ここで吹く風と同じ温度だった。なにか……
何もない。
彩希を囲んだ闇は闇のまま、必死に取っかかりを探す掌をひらひらと弄ぶだけだった。
振り向くと、門が消えそうなくらい遠い。脱出する手がかりを探して、遠くまで来てしまった。
あまりに何も見つからなくて、もう近づきたくなかったはずの門のほうに駆け戻る。
今の私には本当に、あれしかない。
怖い。けど、ここにいても仕方がない。
この門は意地悪じゃなくて、どこかに繋がっているのかもしれない。劇場に帰れる方法が見つかるかもしれないし、迷い続けてるよりはいいかもしれない。ここには何もない。
コツコツとブーツが音を立てる。そのたびに床は、雨粒で土埃が洗われていくみたいにぼんやりと白と黒の市松模様を浮かび上がらせた。
門の前に立ち、彩希はきつく目を閉じた。
触れた箇所は、彩希の体温を吸い取って少しずつあたたまった。それを感じて彩希は少しだけ安心する。
いかついくせに優しい門だ。だからきっと……
恐れていた重たい扉を押す。硬い透明な空気が流れ込んできて、頬を撫でる。
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