04. 泉
2018-6-30 21:30
明日のかけら 04
屋根がよく見えるところまで、彩希は走った。
クマがいないか見まわしてから屋根を見失わないように岩を降り、なだらかな傾斜を下りて走った。目で見るよりも距離があった。一生懸命走ってるのに体がほわほわと軽い。
彩希に見えたのは小屋の屋根。建物の裏側に出たらしい。
彩希に見えたのは小屋の屋根。建物の裏側に出たらしい。
ロッジのような木でできた本当に小さな小屋で、周りをテラスが囲んでいるように見える。
彩希は正面にまわりこんだ。
お菓子の家を半分に切ってしまったみたいに壁がなくて、テラスも途切れて、中が吹きさらしになってる。
舞台セットでこんな家を見たことがあったかもしれない。
小さな小屋の前側は緩やかな坂になっていて、水が流れていた。小川とも言えない細くて緩やかな流れの筋になって坂の下に向かって走っていて、一体どこから流れてくるのか、彩希は遡った。
雨が降った後に道の端にできるくらいの僅かなせせらぎは、真っ二つの小屋の中からきていた。部屋の真ん中に黒い大理石の台があった。のぼっていくにつれて、上に人が横たわっているのが見えてきて心臓が跳ね上がった。
彩希はゆっくり近づいた。顔が見えてきて、脚を止めた。
「早紀?」
目を閉じて泣いてる。じっと見つめていると、横顔の輪郭がわずかに上下するのがわかった。生きてる。ほっと息を吐いた。
瞼が時折うるうると震えて、早紀の目は泉のように涙を流し続けている。身体のほかの場所は眠っていて動かない。
彩希は正面にまわりこんだ。
お菓子の家を半分に切ってしまったみたいに壁がなくて、テラスも途切れて、中が吹きさらしになってる。
舞台セットでこんな家を見たことがあったかもしれない。
小さな小屋の前側は緩やかな坂になっていて、水が流れていた。小川とも言えない細くて緩やかな流れの筋になって坂の下に向かって走っていて、一体どこから流れてくるのか、彩希は遡った。
雨が降った後に道の端にできるくらいの僅かなせせらぎは、真っ二つの小屋の中からきていた。部屋の真ん中に黒い大理石の台があった。のぼっていくにつれて、上に人が横たわっているのが見えてきて心臓が跳ね上がった。
彩希はゆっくり近づいた。顔が見えてきて、脚を止めた。
「早紀?」
目を閉じて泣いてる。じっと見つめていると、横顔の輪郭がわずかに上下するのがわかった。生きてる。ほっと息を吐いた。
瞼が時折うるうると震えて、早紀の目は泉のように涙を流し続けている。身体のほかの場所は眠っていて動かない。
袖にひだの付いた真っ白の衣装。シルバーのベルトのサンダルには羽の細工が付いている。金属でできている金の羽は、羽毛のラインまで細かく彫られていて、風が吹いたらなびきそうだし、今すぐにでも飛ぶことができそうなくらいにリアルだった。
「なんだっけ、ターミネーター…」
「グラディエーターじゃね?」
グラディエーターサンダルでしょ?って呆れた低い声。笑ってる。
彩希が振り返ると、綾乃が立っていた。
「たそー!」
この世界に来て初めて、動いてるメンバーがいた!よかった!みんなもいるんだ!
「ねえ、早紀が起きない」
「大丈夫だよ。寝てるだけだから」
「でも」
「前に一瞬だけ起きたけど基本ずっと寝てるから、そっとしときな」
「でも」
「前に一瞬だけ起きたけど基本ずっと寝てるから、そっとしときな」
心配する彩希をよそに綾乃はそう言って、手を掴んだ。
「行こ。あっちだよ」
「待ってよ、早紀置いてくの?」
「平気だって。クマには襲われないし」
「わかるの?」
「わかるの?」
「まあね。ここのクマは早紀を襲わないよ」
「うん…」
「うん…」
理由がはっきりしないけど、そういうものかと思えたのは綾乃が言ったことだからかもしれない。
この世界のことは自分よりうめたんのほうが詳しいだろうし、これまでもずっと涙が川になるほど眠り続けているなら大丈夫なんだろう。
彩希は綾乃に手を引かれ、森を下った。
森が遮られ、レンガ造りのアーチが連なる高架線が見えてきた。
→5.
この世界のことは自分よりうめたんのほうが詳しいだろうし、これまでもずっと涙が川になるほど眠り続けているなら大丈夫なんだろう。
彩希は綾乃に手を引かれ、森を下った。
森が遮られ、レンガ造りのアーチが連なる高架線が見えてきた。
→5.
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