例の学パロ
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それはファンタジー。 【※閲覧パスはプロフを参照!】
例の学パロ
α
Fragment 03.
智美はどうやら体が弱いらしいと、彩佳から聞いて知った。
休みがちなのも、文学少女なのもごもっともだ。
「ついでにメンタルも弱いらしい。」
こういう時に彩佳は本当に心強い。学校中のいろんなことを大体把握してる。
いつものように体育館前の石段で昼休みの時間を過ごす。
「リスカやってるらしいよ。」
「やっぱそれってほんまなん?」
「夏でも長袖のシャツだし、体育も絶対ジャージでしょ?腕見たことある人もいるっていうしね。」
「なんでそんなことするん?」
「さぁ…?」
彩佳はちょっと首をひねりながら、お弁当のご飯を口に運ぶ。
「有華どうしたの?」
「なんかすごい食いついてんね。」
購買部で昼飯調達の戦から帰還した才加と佐江が、横から割って入る。
「今、有華の前の席なんだ。智ちゃん。」
「智ちゃん?」
「B組の美人さんだよ。」
「ああ。あのミスコンの。」
同じクラスの彩佳が、2人に説明してくれてる。
情報疎い才加でも知ってる、河西智美。
「愛想ないよねあの子。」
「あんま話したことないらしいんだけど、気になるんだって。」
「気になるってどういうことよ?」
「いや、仲良くなれるかなーと思って。」
渡り廊下で彼女を見かけたことは話していない。
なんだか見てはいけないところを見てしまった気がするし、
これでまたネガティブな要素として、彼女のウワサが都市伝説的になっていくのも申し訳ない。
なんでこんなに庇おうとしているのかもわからない。
ただ、自分が話しかけなかったらあのまま午後の授業を休むことはなかったかもしれないとか、あの後ちゃんと帰れたのだろうかとか、
気になっても本人以外の他の誰に聞いてみたらいいのかわからないことを延々と考えていた。
「話してみりゃいいじゃん。」
「そうなんやけどな。」
話しかけられるものなら話しかけたい。謎が多いだけ、興味も大きい。
けど悪い意味ではなく、どうも近寄りがたい雰囲気。
時々、淋しそうな目をする。
二重にも三重にもなにかを秘めていそうな、そういう物悲しさを持ってる。
けどそれが、彼女を一層きれいに見せているような気もして、それが壁のような隔たりを作っているんじゃないかと思う。
「アブナイと思うんだけどなぁ。」
「それはわからん。」
「なんとなくだけど…。」
「有華は素直だから、なんにでも染まりそう。」
「河西色…アブナイ。」
「意味わからんほんま。」
佐江は何でもはっきりと言う。彩佳は納得いかなさそうに首をひねる。なぜかイラついてる私。
とにかく河西智美のあの異彩は、いつも見ている人じゃないとうまく説明できない。
そして、そんな3人の会話を黙って聞いている才加は、いつもズバッと毒を落とす。
「なんだか恋してるみたいだね。」
「なんやそれ。」
河西智美について情報収集をしてどうするつもりだったのかなんて考えていなかった。
けどとにかく行動してみないと何も変わらないだろうということはなんとなくわかった。
そしてなんとなく、それが仲間には受け入れ難いことらしいということもわかった。
些細なきっかけは向こうからやってきた。
ある授業の間の10分休み。
廊下で立ち話をしながらふと席に目をやると、私がペンケースの下に置いておいた文庫本を、智美が勝手に手にとって見ていた。
それはいわゆる、ラノベ。
友達からの借り物だけど、こういう類は好きで読んでいる。
盗まれそうなわけでもないし、自分の持ち物をいじられるのは悪い気はしない。
けど、どうしようもない気まずさのまま席に戻る。
やっぱり変わらずに読み続けてる。けどパラパラとページは進む。
最後に少しだけ目を通して、本を閉じた。
「これ有華ちゃんの?」
「いや、うん。まぁ、そう。」
「好きなの?」
動揺してしまって言葉がつまった代わりに、うんと頷いた。
そして意外な一言に驚かされることになった。
「でもこれだったら前のシリーズの方が絶対おもしろいよ。」
「そうなん?読んだことない。」
「今度貸すよ。」
「ほんま?!ありがとう!」
まさか趣味が合いそうやなんて…。というよりも、ウワサで聞くより普通の子やん。という感想のほうが大きかった。
「意外。」
「よく言われる。」
「こういうのも好きなん?」
「本なら何でも読むよ。」
いつも図書館にいる、と智美は言った。
昼休みも食事を済ませるといつも教室からさっといなくなるのは、どうやら図書館にいたからみたい。
成績も良いらしいと彩佳から聞いたウワサにあったけど、それもそのはずだ。
「けど漫画はめっちゃつまんなそうに読むよね。」
「なんで知ってるの?」
え?と笑った。智美の笑顔を見たのはこの時が初めてだった。
今までのベールに包まれた雰囲気が吹き飛ぶくらいかわいくて、不覚にもドキッとしたのを覚えている。
「ため息ばっか吐いてるやん。」
「だっておもしろくないのばっかなんだもん。」
「ほななんで読むん?」
「みんなが知ってるのに自分だけ知らないとか、話についてけないでしょ?」
そこ気にするんや。
「もう大丈夫なん?こないだ調子悪そうやったし、授業もこなかったから。」
「ああ。たまにああなるんだよね。」
「そうなんや。」
「ありがと。」
チャイムが鳴った。次の授業は日本史。
いつもなら開始20分で智美はイヤホンをして寝てしまうのに、この日は珍しくずっと起きていた。
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