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ただの妄想

車を降りるとアスファルトが濡れて、雨の匂いが鼻についた。
傘、持ってきてないや。残念そうでもなく何の感情もこめずに独り言のように呟く。
大丈夫だよ。
隣を歩いている彼が穏やかに微笑む。
私より少し背の高い彼の顔を見上げた。
彼は傘を持っているわけでもなく、雨を止ませる力を持っているわけでもない。それなのに穏やかに小さな子供をあやすように大丈夫と笑う。
私は何の根拠もない彼の笑顔を見つめた。そして少しの安心を得た。
気をつけていってらっしゃい。頑張るんだよ。
そう言う彼に小さく頷いて、私は足早に駅へと向かった。

乗り換えの駅に着くと、雨は止んでいた。

彼の言ったように大丈夫だった。
いつもそうだ。彼の言葉や笑顔は私を安心させる。
そしてそれが正しかったのだと思う。
私は少し嬉しいような不思議な気持ちでなかなかこない電車を待った。
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