【ふるねじ】連載@ラタ編




















「ちくしょう!!」

 叫んで、拳を叩きつける。痛みなんて今は感じない。
 配線は繋げた。壊れた部品は代用品に代えて、完璧とは言えなくとも、作動位するはずなのに。なのになんで。

「……っなんでだよ」

 ラタは、動かない。
 ぼろっちいベッドの上。顔半分は機械がむき出しのラタは、その瞳を閉じたままぴくりともしない。記憶装置、欠けてたからか? 高性能チップ、ヒビが入ってたからか。なぁ、何でもいい。何でもいいよそんなこと。

「目ぇ……覚ませよ……」

 拳を、今度は壁に打ち付ける。配線を変えても、他の部品を変えても、彼は起動しない。欠けていたとしても、ヒビが入っていたとしても、まだ作動くらいするはずなのに。記憶装置と高性能チップを代えてしまえば、彼は今までの事を忘れてしまうだろう。何もかも、変わってしまうだろう。
 部屋が暗いということに、俺は漸く気付いて顔を上げた。汗やら涙やら色んなもので顔はぐしゃぐしゃだ。袖口で雑に拭って、窓を振り返る。
 ダスト・ピアは宵闇に包まれていた。
 俺には、奇跡なんて起こせない。

「……なぁ……」

 ダスト・ピアの街は暗い。明りが殆どともらない廃ビル郡の上には、瞬く星空が広がっている。今日は、月が見えない。

「なぁ、ラタがアンタに何をした?」

 きらり、星が光る。拳を握り締め、俺は窓辺に近寄った。

「アンタがこいつに……誰よりも願うラタに与えなかったのが元凶だろうが!!」

 なぁ、なぁ?
 其処に居るなら答えて見せろよ。そこで見下ろしているのなら、星のひとつも落として見せろよ。俺にアンタの存在って奴を、その意味って奴を、今この場で示して見せろよ。
 なぁ――神様。

「アンタが本当に存在するってんなら、奇跡の一つくらい俺たちに起こしてくれよ!!」

 拳を、窓に叩きつける。絶望する。どうにもならないことだってある。失ってしまったものを、壊れてしまったものを、元通りに戻す事はとても難しい。
 そんな事は、知ってんだよ。解ってるんだ。大切にしたかった人を失ったあの日に、俺は全部悟ったんだよ。
 なぁ神様。アンタは何もしてくれない。あんたは誰も救わない。そうだろう。……それでも、解ってても、縋りたくなるんだ。どうしようもないことが起きれば、たとえ信心なんてもんが欠片も存在しない俺だって、アンタに願ったり、祈ったり、縋ったりするんだよ。助けちゃくれないと解ってても、願うんだよ。
 なあ、俺にアンタの存在って奴を、その意味って奴を、今この場で示して見せろよ。
 俺たちに、奇跡の一つくらい――ラタに、奇跡の一個くらい、与えてくれたって良いじゃないかよ。
 なぁ。

「……ちくしょう……」

 あの日のように、逃げて終わりにしたくなかったんだよ。



 続